Q.欧米の音楽や歌が世界を席巻したのはなぜですか。
A.これを述べるだけで大変なことになりそうなので簡単で済ませます。20世紀までの人類の歴史は力づくのパワーが支配していたのではないかと思います。世界中にすぐれた音楽や歌はたくさんありますが、世界中のものを集めて分類したり、組み合わせたりするようなことに欧米人は長けていたと思います。たとえば、オペラには声楽があり、世界中にそのプログラムが普及して、人材が育っています。それは戦略の差です。邦楽にはヴォイトレも戦略もありません(もちろん今はそれを行ってヴォイストレーナーと名乗る人もいるようですが)
Q.本物のヴォイトレってあるのでしょうか。
A.それはトレーナーによるというよりも、受け取り方の違い、受ける人によるという方がよいと思います。ただ、同じものを受け取る人で評価が異なることが多いので、それをもって絶対とか本物とはいいがたいと思います。
私は十数名のトレーナーたちとずっと20年以上やり、それぞれの結果も知っています。トレーナーによっては、医学的、解剖学的、科学的、声楽的、発声的にまったくおかしな教え方、おかしな用語、おかしなたとえを使っていても、声を育てるのに優秀な人もたくさんいます。
知識そのものも、この20年ほどで大きく変わったのですから、あまり科学というものを元に考えると、また次の発見で用語や理論を変えなくてはいけなくなくなります。そんなものほど、真実に遠いものはない。なのに、他の分野と同じように、頭で考えたことしか、また、ことばでしか信じられない人が増えています。要は、受け手といっても表面的か本質的かによって、違ってくるのです。
それも対立する方法や理論があるのではなく、受け取り方の違いによることも多いのです。言葉が反対であったり、指示が相反していても、どちらかと頭で考え、判断するのではく、止揚して共に活かすのが、すぐれた人です。それのできる感覚や体に、声にするのです。(時代により流行により変わります。今はリラックス、呼吸、横隔膜、裏声、ミックスヴォイス、発声のいろいろな出し方、胸声、ハイトーンなどのことばが、よくやり取りされています)
雑草から薬となるものを取り出す努力が大切です。石から宝石を取り出す人と、雑草だ、石ころだと捨てて見向きもしない人との違いも、よく感じます。
Q.声において、経験、量、時間は、才能に結びつきますか。
A.才能は努力に支えられますが、努力すれば才能になるわけではありません。まずは、才能の発揮できる方向に努力しなくてはということでレッスンがあるのです。確かに、生まれ育った環境や教育は大切です。さらに生活や宗教経験などでも違ってきます。何よりも、芸術経験、それに類した経験の深さ有無ではないでしょうか。
Q.なぜ、頭を使うなと頭を使わせるのですか。
A.感じて、それでできたら一番よいのです。ことばはイメージのキーワード、インデックスです。できる方向に感じたり、できたときに記銘するものです。そして、それはできるようにすることには無力です。ことばの限界を知り、ことばにだけ囚われないことです。そのようにことばを使っている人は少ないです。このことばが頭ということです。
ことばに囚われるなと、ことばで言うのは矛盾しています。ですから感じてください。
Q.ことばで考えるなというのは、なぜですか。
A.ことばは、わかる、分けるということです。時間的にも論理的にも何かを命名することで二分することになります。手と指と名付けることで一つのものが二つに分かれます。全体を捉えるために細かく名づけて認識するのに、そのために全体でなくなるのです。ですから、私は本では、体―息―声と分けて述べたあと、その結びつきが大切とイメージを付け加えているのです。
ことばで相対的で考えるから、どのトレーナーの方法が正しいのかなどとなるのです。十数名のトレーナーとそこに掛ける(×)数百名の生徒を包括してみていると、すべての相互のつながりがみえてきます。時間としても1日、1週間、1ヶ月から1年10年とみてきたからです。総合化することで正誤はなくなってしまうのです。
Q.発声で自分の悪いところを消してよいところだけにしたいのですが。
A.悪いところというのも、あなたの持ち味です。それを消すよりも、よいところを見つけて伸ばしていくことで、悪いところが目立たなくなり、消えたり、あるいは個性になるようにしたいのです。でも多くの先生たちは悪いところをなくす方が簡単なので、そのことに専念してしまうのです。悪い子のいないクラス、悪いところのない人なんてつまらないと思いませんか。
A.ヴォイトレの基本としては、私は徹底して声をシンプルにします。いろんなものを削がないと、その人の線がみえてこないからです。その人の世界観は、声だけですべてとは思えませんから、一方で、徹底して飾り立ててみせてほしいと思います。
たとえば、私は、スタジオをシンプル、機能的でありたいと思いつつ、いつもさまざまな装飾を入れています。それを消してしまうくらいに一心に声に打ち込んでいる人の姿をみて、ちょうどよいと思います。
Q.異論のないようにヴォイトレを正してくださいませんか。
A.異論の存在を認めましょう。異なる考えがあり、対立するほどに多くを学べるようにも思います。
Q.歌や声の分析の仕方を教えてください。
A.分析は、トレーナーには大切ですが、アーティストには役にたたないどころか弊害を伴うこともあるといえます。ビジネスや日常生活では、便利で手っ取り早いために、分析に頼る傾向が大きくなってしまいました。そのために直観的なプリミティブなエネルギーが削がれてきました。分析がうまくできる人を評価し、分析することに慣れてしまったからです。
Q.ヴォイトレのレッスンも商品としてよく売れるものがよいのでしょうか。
A.売れるものは、そのつど異なっても、価値の基準は普遍的なものです。効率、便利、役立つ、そんな考えが大きな力をもってきているのです。これだけ便利な時代に生きていながら、多くの人が充実した生を全うできないのはなぜでしょうか。悩みどころか鬱や自殺も減りません。どこかで考え方、接し方、学び方を間違えているのではないでしょうか。