Q.すぐに高い声が出る、大きな声が出るのではないでしょうか。
A.トレーニングにおいて、あまり促成栽培的な目的をとらないことが第一です。あえて、長期戦で考えていくことです。付け焼刃の小細工をたくさん覚えても、それはレベルアップしたステージで通用しないばかりか、逆に、あなたの後の可能性を著しく制限しかねません。
特に歌の場合、特定の歌手にあこがれて始めることが多く、その人の声や歌い方が一時、目標や理想となります。そのため、自分の持って生まれた体(のど)を全く省みないで、あこがれの存在に似させてしまうのが普通のことでしょう。即効的なトレーニングの方法を使うと、師匠やトレーナーのやることを丸ごとコピーして、くせをつけてしまうときにも生じます。そのため、何年経っても大きくは変わらないか、よくならないケースが少なくありません。特にどんどん課題を難しくしていくような挑戦は、雑になるだけで無意味か、害になりかねません。
Q.プロやプロ志願者のレッスンでは、どう始めるのですか。 A.せりふを言うか、アカペラで好きに歌ってもらい(好きなところを好きなだけ)、「いかがでしたか」、「思った通り伝わりましたか」というようなことを聞きます。充実感を問うているわけではありません。単に上手下手でいえば、すでにプロとして名を遂げている人なら、下手なわけがないのです。ただ、「本当にイメージ通り伝わりましたか」ということを聞いているわけです。 最初はよくわからないようで、「ええ・・」とか「まあまあ」となることもあります。そのうまさの実体は、声や歌や表現でなく、その人の自信や思い込み、思い入れの表れであることが大半です。それでも、その人の世界が出ていると、なんとかもってしまうのです。 ことば、雰囲気、しぐさ、ムードなどは、プロとして持つべき要素ですが、それが入ってしまうために、声の評価はしにくくなります。まずは、純粋に音声だけ、声の働きかけだけを問うことです。こういう評価ができる耳を持つまでには、とても大変です。「イメージで狙ったように、声だけでデッサンできたか」ということを執拗に突き詰めていきます。そのイメージが適切だったかどうかを含めてです。 Q.声の目的と成果をわかりやすくするにはどうすればよいですか。 A.一流になるための条件から考えると、表現活動とは、人を集め、感動させる力(ショー・エンターテイメント力)に支えられています。それによって、再びより多くの人が集まるようにしているのです。声が出れば、演技ができれば、歌がうまくなれば、プロになれると考えている人もいますが、それだけでは決して続かないのです。現実のプロの人の例はいろいろと参考になりますから、じっくりと研究するとよいでしょう。 何よりも、あなた自身がどうありたいのかということを、あなたの素質と可能性に基づいて、明確にしていくことが肝要です。もちろん、先のことは誰もわかりません。でも、あなた自身のイメージなくしては、未来もそういう形にはなってきません。そのために何が必要なのかがわかってきたら、トレーニングやレッスンにも本当の真価が出てきます。 他のアーティストのステージや生き方、考え方を参考にすることは、自問自答するための材料の一つです。そこから想像し、自分を読み込んでいってください。この本にも答えはありません。ただ、あなた自身に問いを投げかけ、あなた自身が自分のことを深く考えるきっかけになればと思っています。(♭)