発声と音声表現のQ&Aブログ

ヴォイストレーニング専門の研究所内外の質問と、トレーナーと専門家のQ&Aブログです。 あくまで回答したトレーナーの見解であり、研究所全体での統一見解ではありません。また、目的やレベル、個人差により、必ずしもあなたにあてはまるとは限りません。参考までにしてください。 カテゴリーから入ってみると便利です。 【rf :他に詳しく答えているのがあるので、それを参考にしてくださいという表記です。】 引き続き、ご質問もお待ちしています。できるだけ順次とりあげていきます。

Q.男性なのに女声のようなカウンターテナーの高い声はどうして出るのですか。

Q.男性なのに女声のようなカウンターテナーの高い声はどうして出るのですか。

A.男声の高い声、ハイトーンよりずっと高いのがカウンターテナーです。
その第一人者は、ヨッヘン・コヴァルスキー、金髪でハンサムで、話す声は男の声なのに、歌声は女性の声というので、多くの女性がファンになりました。
カウンターテナーは、ファルセットに似た高音を出します。アルト(女声の中域、男性より1オクターブ高い)の音域です。(♭ф)

Q.カウンターテナーの歴史について知りたいのですが。

A.アルフレッド・デラー(英)が、当時の宗教曲を歌い、脚光を浴び始めたあと、1984年、ヨッヘン・コヴァルスキー(旧東独)は、高音とその甘いマスクで、一大ブームを引き起こしました。
同年、カフェカストラートの歌ったヘンデルのオペラ「ジュスティーノ」の主役をつとめ、一躍、国際的スターとなりました。ドミニク・ヴィス(仏)、スラヴァ、ブライアン・アサワも有名です。
「三大カウンター・テナー」(キングレコード KKCC312輸入版)に、ショル、ヴィス、ベルタンの3人が出ています。アリス・クリストフェリスは、さらに高いソプラノの音域で、カストラートに近いと思われます。皆、ハンサムでかっこうがよいので、ブームに一役かったと思われます。日本では「もののけ姫」のテーマソングで一躍、その存在を知られることになった米良美一氏がいます。
(参考に)「コヴァルスキーが語るカストラートの歴史」(BMGビクター BVLC125)(♭ф)

Q.カストラート出現し、そののちいなくなったのはなぜですか。

A.男性は、第二次性徴期に喉頭が大きくなります。そのために声変わりが起こり、太い低い声に変わるのです。
それを思春期に達する前に、生殖腺、つまり睾丸を取って去勢してしまえば、胸や肺の他の部分は大きく成長しますが、喉頭は大きくなりません。呼吸器官や共鳴腔は大きくなるため、すばらしいヴォリューム感のある女声をもつことになります。これが、カストラート(castrato)です。
カストラートは、美しい声、高い声で、力強い表現を伴い、天上の声、天使の声といわれました。
カストラートは、イタリア・オペラではもてはやされたため、貧しい親が声のよい男の子を去勢しました。一時は毎年4千人以上の少年が去勢されたといわれます。
映画「危険な関係」では、カストラートヘンデルの「オンブラ・マイ・フ」を歌うシーンがあり、当時のコンサートのさまが描かれています。
16世紀頃からヨーロッパの教会で女性に歌うことを禁じたため、男性の子供の声をカストラートとして存続させようとしました。そのピークは、17~18世紀です。
1562年、ヴァチカンの礼拝堂で始まり、1587年、ついにカトリック教会は去勢手術を禁じました。しかし、その後も続けられ、17世紀から18世紀にかけてカストラートは最盛期となりました。特に、イタリア・オペラで大いに受けたため、カストラートはヴァチカンの礼拝堂に1913年まで所属していたという記録もあります。

システィーナ礼拝堂には、ベルナルディ、ベルナッキ、ブロスキ(ファリネッリ)、マヨラーノ、マンツォーニ、クレシェンティーニ、モレスキーなど、たくさんの有名なカストラートがいました。
当時、「去勢者の声は天使の声」と言われてもてはやされ、イタリアの教会でも男性ソプラノを用いたし、オペラにおける女性の役も、18世紀にはすべて男性ソプラノによって置き換えられるようになったといわれます。
しかし、ホルモン異常で性格に異常が起こりやすいなどといった弊害と人道的な理由で、カストラートはもう現われないでしょう。
参考本としては、「カストラートの歴史」(パトリック・バルビエ 野村正人訳 筑摩書房)。
現在、録音で聞けるのは、「カストラートの時代」(東芝EMI TOCE8693)で、1902年、アレッサンドロ・モレスキ(1858~1922)であるが、すでに全盛期とはいえません。(♭ф)