A.退屈させる歌が続くなかに、衝撃のあるもの、心地のよいもの、生々しいメッセージが含まれているものが一曲入ると、新鮮さを感じます。一曲(噺なら一題)ですが、深い声になりやすいものを選んでください(外国語でもかまいません)。聞いたら、もう一曲聞きたいか、もう一曲持つかどうかでみます。2曲持てば、プロです。2曲できたら、次は6曲への挑戦です。本当に勝負できる作品というなら、一生かけてこれでも充分でしょう。
もっともよいのは、心地よく、乗れて、飽きないものです。清涼感があり、スッキリして、聞くだけで体が浄化されていくものです。すると、ことばやメロディよりも、声の音色、リズムというものの大切さがわかってきます。トップレベルの人が私の元にトレーニングを受けに来るのは、そこにある世界を求めてのことなのでしょう。
これは、今、流行の声に、エコーをかけた癒しの歌とは、全く違います。表面的に作られたものは、出だしを聞いただけで最後までみえてしまうわけです。聴衆にリードを許してしまったら(聴衆が読み切ったら)、ステージは成立しません。
よい意味で聴衆の予想を裏切り続けるために、すべてが見えるように歌ってしまってはいけないのです。常に創造する、そこがプロの持つ深さの違いです。そこを支えられる懐の深さがあってこそ、表現、それを最大限に発揮するための余裕や安定となります。