A. もちろん、曲そのものの良し悪しは大きいですが、真に優れた歌手は、そんなものを簡単に飛び越える力を持っています。
こんなエピソードがあります。ある時作曲家のロッシーニは、高名な舞台女優と議論になりました。ロッシーニは「歌の力は作曲家の力であって、歌手の力が全てではない」と主張。それに対し女優は「それはそうだけど、私はどんなつまらない作品でも、そこに命を吹き込めます」と答えて、「なんでもいいから読んで聞かせます」と、手近な紙を持ってこさせました。その紙は洗濯屋の伝票。「○○様お預かり、シャツ1枚、ジャケット2枚…」おそらくそんな内容の伝票を、女優は読み上げていきます。その声と情感に、その場に居合わせた人々は息をのんで聞き入ってしまい、数分後にはそこにいた全員が、感動のあまり涙を流していました。ロッシーニは自身の負けを認めたそうです。([E:#x266F]∂)