発声と音声表現のQ&Aブログ

ヴォイストレーニング専門の研究所内外の質問と、トレーナーと専門家のQ&Aブログです。 あくまで回答したトレーナーの見解であり、研究所全体での統一見解ではありません。また、目的やレベル、個人差により、必ずしもあなたにあてはまるとは限りません。参考までにしてください。 カテゴリーから入ってみると便利です。 【rf :他に詳しく答えているのがあるので、それを参考にしてくださいという表記です。】 引き続き、ご質問もお待ちしています。できるだけ順次とりあげていきます。

Q. 腹式呼吸を強化するために、腹筋運動をするのがよいのでしょうか。

A.高校時代、ふとした間違いから男声合唱部に入った私は、毎日100回、腹筋運動を、先輩たちからノルマとして課されました。高校一年生だったおかげか、中学では文化部に所属していたにもかかわらず、あっという間にクリアできるようになったのを憶えています。

腹式呼吸は、横隔膜という名の筋肉を使う呼吸法なので、腹筋とは直接関係はありません。ただ、筋肉というものは、大抵の場合、対抗する筋肉があると、使いやすくなります。

例えば、腕の前側の筋肉と、後ろ側の筋肉のようにです。前側の筋肉しかないと、腕を曲げることはできますが、腕を伸ばすときは、前側の筋肉の力を抜くしかありません。考えても素早く腕を伸ばすことは、できなさそうですし、ゆっくり伸ばすには、とても慎重なコントロールが必要になりそうです。ですが、腕の後ろ側の筋肉があれば、腕を伸ばすときは、後ろ側の筋肉に、前側の筋肉よりも力を入れれば、容易にコントロールして腕の伸ばしができます。

そのように、横隔膜の対抗筋として、腹筋全般や骨盤底筋は、強い方が、横隔膜との息のコントロールが、容易になるので、積極的に強化してよいと思います。ただし、強化だけでなく、ストレッチも充分にして柔らかさを保たないと、腹式呼吸量が減る原因にもなりかねないので、忘れないようにしましょう。([E:#x266D]Ξ)

 

.最近は発声そのものに対しての腹筋不要論というのは実際あります。腹筋を大きくすることや固めることは力みやすくなる、硬い腹筋は動きを邪魔する、柔軟なお腹の使い方が重要などの意見が多いです。腹式呼吸をトレーニングすることと6パックの腹筋をつくることはあまり関係ないように思いますし、歌う筋肉は歌いながらつけるという意見もあると思います。

しかし程度の問題はあれど、腹筋運動があまりできないような体も考えものです。ある程度、ハードな運動や筋トレをおこなう歌手というのは多いです。ピラティスやヨガをとり入れている歌手もいますね。

私自身、トレーニングの一環で一本歯下駄と呼ばれる歯が一本しかない下駄をはいて歌ったり、バランス感覚をきたえる器具の上でトレーニングすることがあります。するとお腹の重心や下腹部がうまくバランスがとれないとふらつくので目安となります。

腹筋運動などもやりすぎてはよくないと思いますが、ある程度のレベルならやってもいいと思います。やってみて自分に合わないと感じれば回数を減らしたり、やめてもいいですし、ストレッチを多めにしてみるなど、自分なりの改善点を見出していけばいいと思います。

「絶対」というトレーニングはないと思います。リスクとリターンのバランスを考えながらトレーニングするものだと思います。リスクを取れない人にはリターンはないので「腹筋運動は絶対NG」という感覚にはなりすぎないほうがいいでしょう。([E:#x266D]Σ)

 

.腹筋運動は、健康のためとか腹筋を鍛えるためにはよいと思います。ですが、腹式呼吸そのものを強化したいのでしたら、呼吸の練習をすることがより効果的です。なぜなら、腹式呼吸とは「呼吸する」ときの身体の働きを指しているからです。

呼吸の練習では、安定した息を吐く中で、横隔膜の動きをコントロールすることを行っています。それを踏まえた上で、「腹筋運動のときの呼吸はどうなっているか」を思い出してみてください。安定して息を吐くどころか、(人によっては)身体を起こすときに息が止まっていたりしますよね。これでは「呼吸する」こと自体が規則性のないものになり強化のしようがありません。

練習とは、同じ動作(または同じ状態)を繰り返し行うことでそれが身についていくものです。そもそも腹式呼吸のときに腹筋だけが働いているわけではないのです。そのあたりも含めて学ばれると、もっと視野が広がると思います。([E:#x266F]α)

 

.筋肉の少ない人、基礎体力の弱い人、歳を重ねて体が硬くなってきた人などは、運動をたくさん経験してきた人に比べると、どうしても基礎的な力が弱いと言わざるを得ません。自分自身の基礎力の向上という意味で、程よく腹筋運動を取り入れてみるとよいと思います。

しかし、腹筋運動をやること=腹式呼吸の強化とはなりません。いわゆる腹筋運動で使われる筋肉や働き方と、腹式呼吸で得たい筋肉の部位や働きは一致しないからです。

腹筋運動と一言に言っても、トレーニングの種類はいろいろあると思います。行うのであれば、何を鍛えたいのかの目的をしっかり持って、トレーニングするとよいと思います。

腹式呼吸の強化が目的なのであれば、腹式呼吸に関するトレーニングを積極的に行うことが望ましいです。呼吸で使われる筋肉の働きや感覚は、呼吸のコントロールを繰り返し行っていくことによって身についていくものです。

ご自身でやり方がわからなければ、レッスンでトレーナーに相談してみてください。レッスンで与えられた課題を繰り返し取り組んでみるとよいと思います。結果的にそれが近道になります。([E:#x266D]Я)

 

.基礎体力の底上げ、筋肉が少なすぎるからつけたい、などの理由からの腹筋トレーニングはいいと思いますが、腹式呼吸を強化するためでしたら、腹筋運動はあまりおすすめしません。寝て上体を起こす腹筋運動は腹直筋に働きかけて、体の表層部の腹筋を強化しますが、それは呼吸のためにはあまり役に立ちません。

筋肉には収縮して力を発揮する場合と、伸びながら発揮する場合と、止まっているけど力を発揮する場合があります。呼吸のために必要な筋肉の使い方は、「止まっているけど力を発揮している」というパターンになります。呼吸や発声の際には、筋肉を縮めるような使い方は不利だと思った方がいいです。ですので、なるべく長さを変えないように維持するように使うことをおすすめします。

息を吸って胸郭が広がったら、なるべくその空間を維持して、細く長く息を吐いてみましょう。

息を吐くとすぐ体がしぼんでしまうという人は、息を吸って体を広げた状態で息を止めて、胸郭の拡張を維持して慣れていきましょう。骨盤底筋を引き上げたり、お尻の穴を締めたり、骨盤の一番底を強固にしていくことも腹筋のパワーアップに貢献してくれると思います。

([E:#x266F]β)

 

.よいと思います。この質問は次の質問と同じ種類のものです。「速く走れるようになるために、ウエイトリフティングをするのがよいのでしょうか?」多くの人にとって、この答えは「関係ない」でしょうが、私は「関係がある」と考えます。全身の筋肉はつながっているからです。

腹式呼吸は体の内側の筋肉であり、そのトレーニングはレッスンでトレーナーがメソッドとして持っている「息吐き」でしか鍛えられません。腹筋運動はおなかの外側(体の表面)の筋肉であり、直接的には関係ないといえます。

しかし、腹式呼吸を強化したいと考える人は大抵の場合、体の筋肉が全体的に不足しているように思います。ですから、運動は何であれ、とにかくやった方がよいです。ウォーキング、ランニング、ダンス、武道、水泳、球技など。私も学生時代まで運動部に所属していましたが、先輩に「もっと大きな声を出せ!」「腹から声を出せ!」と怒鳴られます。メソッドは何もありません。しかし、新入部員は数か月で大きな声が出るようになります。ヴォイストレーニングの第一歩はスポーツだと思ってよさそうです。([E:#x266D]∴)

 

. やらないよりはやる方がいいです。ただし、腹式呼吸で主に使うのは腹筋ではなく、腹筋よりも内側にある横隔膜や、斜腹筋、骨盤底筋などです。もちろん、筋肉は単独で使うものではなく連動しているので、腹筋を鍛えることはその周りの筋肉の助けになります。

腹筋運動をしたら、同じだけ背筋運動もやって下さい。前後のバランスがとれていることがとても大切です。背筋は、姿勢よく立つためにも重要な筋肉です。

腹式呼吸は筋肉だけで行うものではありませんが、鍛えられた体は有利です。

私は高校の合唱指導を行っていますが、混声合唱部は往々にして男声が不足しがちです。合唱コンクールの前には臨時の男子部員に来てもらうことがよくあります。この際にアドバイスしているのが「できれば運動部、それも可能なら水泳部の男子を」ということです。彼らを正しく指導すれば、短期間で既存の部員に追いついていい声で歌うようになります。横隔膜を支える筋肉がついているからです。

とはいえ、筋肉だけでは歌えませんので、腹筋背筋を鍛えるなら呼吸の練習も忘れずにやりましょう。([E:#x266F]∂)