発声と音声表現のQ&Aブログ

ヴォイストレーニング専門の研究所内外の質問と、トレーナーと専門家のQ&Aブログです。 あくまで回答したトレーナーの見解であり、研究所全体での統一見解ではありません。また、目的やレベル、個人差により、必ずしもあなたにあてはまるとは限りません。参考までにしてください。 カテゴリーから入ってみると便利です。 【rf :他に詳しく答えているのがあるので、それを参考にしてくださいという表記です。】 引き続き、ご質問もお待ちしています。できるだけ順次とりあげていきます。

Q.日本語で歌うのが苦手です。よい勉強法はありませんか。

A. 日本語で歌うのが苦手で、日本語以外なら平気ということならば、問題の解決は、それほど難しくはありません。まず、日本語の歌詞を、日常生活で使っている日本語として捉えてしまうところから、その弊害が始まります。意味のよくわからない呪文だと思い込めれば、他の言語の歌詞のように、よい声で、歌うことができるのではないでしょうか。やや邪道ですが、急場をしのぐには、よいかと思います。

本来は、言葉にとらわれて、発声が乱れることが、原因になる場合がほとんどなので、一歩ずつトレーニングを進めていくのがおすすめです。

まず、口の中を、なるべく自由自在に空けたり閉じたりできるように、「あくびの練習」をたくさんしましょう。顎関節症がある場合は、少し用心して、顎は、あまり大きく開かなくてよいので、口の中を、しっかり空けられるように、取り組みましょう。これと並行して、曲を、母音で歌う練習をします。歌詞ではなく、「ア」や「オ」で曲全体を通して歌うと、メロディ本来の美しさや、デュナーミクのあり方、部分的な歌いやすさや歌いにくさが改めて見えてきて、繰り返し練習している曲ならば、母音の方が歌いやすいことでしょう。また、母音だけで歌う方が、声のコントロールもしやすくなります。こうして、曲全体を、お気に入りの声で歌えるようになったら、歌詞で歌って、声が乱れないようにしていきましょう。(♭Ξ)

 

A. 日本語をどれだけ体で捉えられるかということだと思います。例えば外国語の曲をその言語のまま歌ってみて、その声を録音してみましょう。今度は日本語訳で歌ってみます。それで外国語で歌った場合の方が声がよければ、そちらにどうやったら声がよっていくかを考えて、トレーニングしていけばよいと思います。

私自身は外国語で歌うことが多いですが、日本語の歌や童謡をコンサートで歌うことをライフワークとして行っています。その際、気をつけることは、歌うときの口の中が狭くならずに日本語を明瞭にすることでしょうか。これはとても難しいです。日本語には口の中が狭くなりやすい弱点があるのですが、それを開けると今度は発音が不鮮明になりがちです。そこのバランスがとても難しい。支えの問題もありますが、声を胸で響かせたり、ブレスで顎を引いてみるのも効果的です。または、歌詞だけを役者のようにしっかりとすべてを鳴らして、その後に歌ってみてもいいかもしれません。

歌詞が鳴っていないとメロディに歌詞をのせてもうまくいきません。母音、子音も含めて単語、文章を体でとらえる訓練といってもいいでしょう。

このようなトレーニングを行うことで苦手なものでも次第に改善していくと思います。(♭Σ)

 

A. 日本語は母音優勢言語です。もともと子音が多い方が発声の助けになり得るので、外国語の方が歌いやすい、日本語で歌う方が苦手というのは珍しくありません。子音という発音の拠り所が減る分、しっかり歌おう(発音しよう)として、無意識的に余計な力みや動作が生じやすくなるのです。

あくまで練習方法のひとつですが、前歯を噛み合わせた状態のままで、まずは歌詞を発音する練習をしてみてください。発音が明瞭になるまで(発音がしやすくなるまで)何度か続けます。その後で、口を開けて同じ歌詞を発音してみると、必要以上に何かを頑張らなくても、明瞭な発音と共に声がスムーズに出ていく感覚を得られると思います。慣れてきたら、音程をつけて歌う練習も同様に行います。これは一見すると、「口を開けられない」という動作を制限した状態になりますが、それは言い換えると、(その人なりの)余計な力み・動きが出られない状態にもなっているのです。またその制限によって、しっかり息を流すことも促されます(そうしないと、発音ができないので)。このように「前歯をかみ合わせた状態」で発音する(歌う)ことは、自分で自分を整えていく作業になっているといえます。(♯α)

 

A. 質問の内容から、たくさんの解釈ができますので一概に答えるのは難しいのです。普段日本語で会話をしていて、歌うとき、ほかの国の言語で歌うのは苦手ではないけれど、日本語の歌となると苦手に感じるという意味でしょうか。今回はこのように解釈して進めさせていただきます。

他の国の言語、特にイタリア語などの場合の発音状態と、普段我々がしゃべっているときの日本語の発音状態というのは、だいぶ差があると思っています。日本語の場合、口をあまり開かなくても喋れてしまいますが、イタリア語の場合はある程度、口の空間が広く保たれていることが必要だと思います。もし、イタリア語の曲を歌うときは歌いやすいけれど、日本語の曲を歌うと難しく感じるというのであれば、普段喋っている日本語の会話の状態が自然だと体が覚えてしまっていることにより違和感が生じているのかもしれません。

言葉によって顎が動きすぎたり、口の奥の空間がせまくなったりしないように注意してみるとよいでしょう。口の奥の空間は狭いのに、一語一語、顎や口を動かしながらしゃべるように歌うという状態が起きていると、歌いにくい方向に進んでしまっているかもしれないので、注意してみるとよいと思います。(♭Я)

 

A. 私はオンラインでネイティブに発音のレッスンを受けています。ドイツ語、イタリア語、フランス語の発音訓練なのですが、つくづく思い知らされることは、ヨーロッパの言語は軟口蓋や、頬の位置あたりで口の中で響くのに対し、日本語は、その位置よりももっと低く、極端に言えば声帯に近いぐらい喉の下の方で響いているということです。

普段話している日本語のポジション、日本語の発音の感覚で歌えば、うまく声が響かないのはもっともな話です。

これを回避していくには、カンツォーネなどで、声のポジションを高く保って日本語を歌って見ることです。常に頬骨、目の高さに音があると思って発音し歌ってみましょう。

それから、日本語もローマ字で変換してみるといいです。「春のうららの隅田川」→「haruno urarano sumidagawa」といった具合です。日本語では母音も子音も同時に表記しますが、このように一度ローマ字で直すと、母音と子音の連なりで言葉ができていると再確認できます。歌においては、この母音が音になるので、母音を帯のようにつなげる意識で歌いましょう。その際、声が軟口蓋や頬骨、目の高さにあると意識して練習してみてください。(♯β)

 

A. 確かに、日本語で歌うのはとても難しいです。日本語は歌に適していない言語であるといってもいいと思います。ヨーロッパ諸語と中国語は、音楽と言語が同じ脳を使っているが、日本語と韓国語は、音楽と言語は脳の別の場所なのだそうです。それでも我々が日本人であり、自分たちの言葉で直接伝えたいと思ったときに、日本語による表現を学ばなければなりません。2つの勉強法をご紹介します。

1つめは、ローマ字に書き換えて、イタリア語のようにあえて発音してみるということです。外国語だとノルのに日本語だといまいちだというのは、ある程度自然なので、そのことを使うわけです。また、母音だけをつなげて歌うのもおすすめです。

2つ目は、日本語歌詞の音読をたくさんして、音なしでの日本語の表現の可能性をたくさん作ることです。間、高さ、速さ、声色、いろんな要素を練って、完璧な音読表現ができるようにしてください。日本語は文学的な言語です。視覚的な表現に優れています。イメージが言葉から現れるまで、歌詞を音読してください。ちなみに、日本最古の歌集、万葉集は、日本語の言語としての可能性、また日本人の歌謡のルーツを知ることができるので読んでみてください。(♭∴)

 

A. ロッククライミングに例えると、ドイツ語や英語の歌はゴツゴツした岩場を掴んで登るような感覚です。日本語は逆で、ツルツルした岩をうまく捉えなくては登れません。イタリア語やスペイン語はその中間でしょうか。

ここで例えている岩肌の質感は子音のことです。つまり、取っ掛かりが多い方がつかみやすいわけです。日本語は母音過多な上に1音に1モーラしか当て嵌められないため、つかみにくい言語です。

しかし筋力が発達し、体の使い方が上手くなってくると、取っ掛かりの子音がなくてもきちんと言葉を捉えられるようになり、どの言語でも対応可能になります。つまり、子音に頼らない歌い方を習得すればいいのです。

練習方法は、母音だけで歌うことです。例えば「この道は」なら「オオイイア」、「Che bella cosa」なら「エエアオーア」という風に、子音を取り払って歌ってみるのです。少々頭を使う作業ですので、難しいようでしたら楽譜にローマ字で歌詞を書き込むとわかりやすくなります。

ちなみに山田耕筰の楽譜には、歌詞がかなとローマ字で併記されています。日本語歌唱の難しさを理解していたからこその配慮でしょう。(♯∂)