A.「ヴォーカルの裏ワザ」には、トレーニングということでなく、気づくことだけについて、100個ほど書きました。その中に比較ということで述べたのがあります。日本人で一番優れている歌い手が、向こうの優れている歌い手のようになりたくて、勉強してプロになった。そのときにはどういうことが勉強できるかというと、この二つを比べてみたらよいのです。少なくとも日本人のトップだけを聞いてみたら、うまく聞こえるはずです。そこに元祖の歌い手をおいたら、ようやく差が見えてきます。足らないものがわかってきます。それを知れば勉強できます。できる、できないではなく、10年経って、この人の体や感覚と同じレベルのものが手に入るとしたら、そこからこの人を越せる可能性が出てきます。
昔の人はそれなりに優れています。時間もかけて勉強していたのです。その人たちが越せなかったのはどこかという見方をします。それを聞いて自分のものを聞くと、どこが足りないとわかってきます。このギャップの認識が必要です。常にトレーニングはギャップを自分で見つけていく。トレーナーにつくのも、自分ではいいと思っていても、先生に「よくない」といわれる。この酷な状況を納得できるのであれば、一番いいレッスンになります。
困るのは、当人自身が満足で「どこも悪いところはない」ということになってしまうと、トレーニングもレッスンも成り立たないのです。やれるかどうかは世の中が判断するので、それは別のことでいいです。