A.歌唱力の差が顕著に表れるのが、歌の流れの中でのメリハリです。これは単に、言葉に強弱を付けるだけではありません。「一気に流れるように歌う部分」と、「1つ1つの言葉を丁寧に感情のニュアンスを込めて歌う部分」の両方が必要なのです。前者はお客さんの気持ちの流れに沿う「期待」、後者はその流れから少し外れた「裏切り」と言い換えてもいいでしょう。大きな流れの中に「期待」と「裏切り」を両立させるわけです。
お客さんの期待通りに、淡々と流れていく一本調子の歌は、すぐに飽きてしまいます。新しいことをやってくれるという期待感がなくなってしまうからです。お客さんが歌い出しだけで、ほぼその人の歌い方を判断してしまい、他の曲もずっと同じように歌うんだな、と思うと飽きてしまうのです。
そうならないために、メリハリを付けるのですが、全体の流れの中で、「フレージング」(言葉ではなく音の区切り)を大きくとらえてみることからです。大きくフレージングでの展開や構成をとらえていないと、言葉を切ったときに、気持ちも持続できなくなります。常に次の流れを作ることを強いられ、いつも単純に同じ調子になってしまうのです。ボールがバウンドするように、大きなメリハリを付けて、その流れに乗せて言葉を置いていく方が、歌いやすいですし、それが歌に魅力を加えやすくするわけです。(♭)