発声と音声表現のQ&Aブログ

ヴォイストレーニング専門の研究所内外の質問と、トレーナーと専門家のQ&Aブログです。 あくまで回答したトレーナーの見解であり、研究所全体での統一見解ではありません。また、目的やレベル、個人差により、必ずしもあなたにあてはまるとは限りません。参考までにしてください。 カテゴリーから入ってみると便利です。 【rf :他に詳しく答えているのがあるので、それを参考にしてくださいという表記です。】 引き続き、ご質問もお待ちしています。できるだけ順次とりあげていきます。

Q. 今の日本の声楽、ヴォイストレーニングのレッスンメニュへの意見や提案

.私自身は、どの様なメニュでも、それなりの使い道があると考えているので、これは使えないというようなメニュは、特にありません。どのようなメニュでも、生徒さんの目標や習熟度・目的に合わせて、使い分けていくのがよいだろうと考えています。(♭Ξ)

 

.共鳴重視のトレーニングがほとんどで声そのものが弱い人が多い。声がでていないのに響きばかりのレッスンというのは生徒が伸び悩むことが多いです。実際プロの現場にいくと皆様声もテンションも大きいですし伸びやかです。共鳴がある声が悪いのではなく、共鳴重視のレッスンだと伸びやかでない生徒がとても多いのです。

(♭Σ)

 

.クラシック自体が、まだまだ敷居の高い音楽のイメージで好んで聴く人が限られているように思います。そのため、歌はもちろん、見た目も華やかであったり、声楽家であっても馴染み深いポピュラー的なレパートリーの曲も歌えることが必須になっているように思います。

レッスンメニュは、ポップスでも、声楽でも共通する部分がたくさんあるように思う。腹式呼吸の練習もその一つである。なぜなら、いくらマイクを使うポップスであっても、人に感動を与えるものは腹式呼吸(横隔膜呼吸)が必須だからである。

声楽のトレーニングにおいて、ビブラートの練習は不要。なぜなら、故意にかけるビブラートは喉を酷使するため。ビブラートは基本的に不要で、もしビブラートがかかってしまうときがあるとすれば、腹式呼吸から生まれる自然な声の揺れである。(♯Ω)

 

.ロングトーンの練習、スケールを使う発声、呼吸法、スタッカートの発声

楽譜・・・コンコーネ、ボルドーニ練習曲集、マルケージ練習曲集、イタリア歌曲集(♯Δ)

 

.使えるメニュ

呼吸の練習、

音階練習(半音階で上行形と下行形を行う)

声楽、ポップス、ジャズなどジャンルを問わず歌う人にとって共通していることは、楽器奏者と違い、自分自身の「身体が楽器」ということです。両極端のようにみえる邦楽やロックだとしても、「身体を使って息をコントロールし、その息に声が乗る」という部分は同じです。また、なにもケアしなければ加齢とともに歌いにくくなるのも同じです。歌うための筋肉や身体の使い方を鍛えていくにはとても有効的であり、また安全な方法です。

それぞれの声帯によって音域やチェンジの位置が違うため、音階練習は個人に合わせてトレーニングすることができます。また、同じことをなんども繰り返し行う中で新たな感覚を得ることが出来る、という意味でも役立つ方法と言えます。

 

使えないメニュ

常に同じ音域で行う練習

常に同じアプローチによる練習

声帯によって音域やチェンジの位置が違うにも関わらず、常に同じ音域(もしくは同じ音)で行っていては、その人の声帯の特徴を最大限に発揮するチャンス、可能性を広げるチャンスが狭められてしまいます。また、ひとりひとり身体が違うので、同じアプローチでは限られた人にしか対応できないと考えます。(♯α)

 

.腹式呼吸に関してですが、下腹をへこますことによって呼吸を送る方法はあまり実践的でないと考えます。呼吸器官の準備運動としてはいいのかもしれませんが、発声方法としては自然でないような気がします。

むしろ胴周りは脱力させて横隔膜を下げることによって胴回りが膨らんでいく呼気方法が効果的かと思います。もちろん呼吸が少なくなっていけば実際には胴回りはへっこんでいきますが、感覚としては常に「横に下に」張っていく感覚がいいと思います。くしゃみ、せき、笑い声、泣き声、などは後者の呼気法で息が送られていると思います。おそらく赤ちゃんや動物一般にそうかと思われます。つまり自然なのです。

もちろん、高音や呼気の微調整のために腹背筋の様々な筋肉の収縮も必要かと思いますが、基本的には横隔膜呼吸が自然、効果的かと思います。(♭Д)

 

.ヴォイストレーニングも、指導にあたる講師によって方法が様々です。

なるべく奥で歌うよう指導する日本の先生、できるだけ前の方で歌うよう指導するNYの先生、二人の恩師の行き着くところは同じだと分かっていますが、そこまでの過程がこのようにまるで逆であることは、ある程度経験をつまなければわからないことです。

声は前に飛んでいかなければいけません。ですから前に、と言う説明は、私自身もよく使いますが、これだけでは、骨格の華奢な日本人には通用しません。

ある程度、共鳴が奥の方(紙面上なのでうまく説明できませんが)でなければ、ただの喉声になってしまうわけです。

日本人が「地声」といっている場所も、NYでいうところの「地声」ではなく、「喉声」にあたるということをはじめてわかりました。

まずはハミングで、喉が楽な状態で発声できる場所を見つけることです。そして「ハーイ」とか「イーイーイー」などと手を回したり、上にあげたりしながら声を飛ばすこと。

息がスピードをもって身体から出て行くことを練習します。

口の中も上あごが奥のほうまで張っていられるようストレッチをします。奥が広くなることで、欧米人のように深い共鳴になり、声が楽に出るようになります。

これらの基礎の基礎は、クラシックでも、そのほかのジャンルでも同じですので、まずはこれらを習得することをお薦めします。

(♯Å)

 

.自分が身を置いているクラッシックの、私の身の回りの声楽家達につきましては、30代~50代の方で若い頃、優秀だった方の多くが力で喉を押した発声をされている方が多いように感じます。近くで聴いていると迫力があるのかもしれませんが、大きなホールでは通らないようで、先日の演奏会で後ろの席に座られた客さま何人かからも「頑張って声を出しているかんじだが、声が飛んでこなかった」とご指摘がありました。

力づくで出す発声は声帯に負担がかかり、長年続けると声が出にくくなり、歌手生命も短くなります。声帯に負担をかけず、身体に十分に共鳴させる発声法を身に付ける発声であれば、年齢を重ねても美しい声で歌っている有名歌手もいますし、私もそうあるよう、努力しています。

 

使えるメニューとしては体幹を鍛えるトレーニング、柔軟運動。理由は身体を使った発声のため。(♯μ)

 

.声楽家によくありがちなのが、「自分の教わってきた方法を、そっくりそのまま伝えるだけになってしまい、実情が見えていない」というメソッド。

これは自分に合う人には効き目があるかもしれませんが、それがダメだった場合に、その人をどう改善していけばよいかということに繋がらず、結局生徒が育たなくなってしまうように感じます。具体的な例として、「ブレスは必ず鼻から吸わなければダメです」という先生の生徒で、最初期からそう教わってきた人を見ると明らかに吸えていないし、肩が上がっているし、何の練習を教わっているのか理解できないことがあります。口から吸おうが鼻から吸おうが、大事なのは、声を出すために十分なブレスを吸うことであって、その格好を気にして内面が見えていないのでは本末転倒であると思います。また、声が十分出せない人に、はじめから「響きを高く集めて」ということを教えることも同様です。声が磨かれないうちから、最終調整のようなことを気にしだしたら小手先だけで変化できないと思います。

また、「鼻に声を集める」というメソッドも日本ならでは出しょう。外国人にいたとしても少数派です。日本人でも、世界の檜舞台で活躍されている声楽家は海外の歌手と差が少ないか、むしろそれを凌駕するレベルにあるのに対して、日本の声楽教育の多くはそのレベルに達していません。よくも悪くも根本的な原因はメソッドにあり、生徒も先生も研究が足りていないと感じます。生徒の実情に目を向けて、適切なアドバイスをすることを心がけることが必要だと考えます。(♭Я)

 

.すぐスケールなど音階練習を始める方法を取る方がいますが、これは本当に危険だと思います。スポーツと全く同じで、まず、ストレッチなどでこれから使う筋肉をよくのばし、呼吸で身体を温め、血流がよくなってから歌い出さないと故障の原因になります。朝起きて間もないのに発声をやるなどはもってのほかで、しっかり水分を取り、身体を温める時間を作って歌い始めないと、乾燥で声帯がやられ、身体を使って声を出せないので、声帯のみに負担をかける癖がつきかねません。

私は以前は鼻腔共鳴の発声をしていました。喉に負担が掛からないし、響きもきれいだし、何より日本人好みの音声ではあるのですが、それでは、しっかり身体で支えられた音声は得られにくく、音がふらつき、揺れてしまうという弊害が出てきました。また、言葉の発音が非常に不明瞭で、いわゆる言葉が聞き取れない歌唱になってしまっていました。ですので、今は地声のまま(ソプラノなのでもちろんチェンジはしますが)、声帯をぴしと合わせてビーと声帯原音をしっかり作って息を流していく発声に変えました。そうすることで、声は支えられ、音量も増し、言葉は明瞭で、何より良かったことはブレスが長くなったことです。声帯の息漏れが少なくなったからです。(♯β)