A.秋川さんの歌う「千の風になって」が大ヒットしたとき、私の回りのテノールは皆、口をそろえて彼の発声を非難しました。まるでバリトンのような声で、まったくテノールらしくないと。私もそう感じましたし、そう思いました。
ところがそれから数年、オペラ界はドラマティコばやりなのか、口を縦に開けたテノールやソプラノばかりが目に付きます。たぶん流行りなのでしょう。もともと、口を縦に開けるテノールは昔から活躍していましたが、テノール全体の人数の1~2割といったところでしょうか。太く立派な声の、いわゆるドラマティコと呼ばれるテノールの多くが、口を縦に開きます。そうすることで、声が太く立派に聞こえるからです。
戦後に大活躍した長身で美男のフランコ・コレッリ、三大テノールのひとりのホセ・カレーラス、2000年前後に藤原歌劇団や新国立劇場のオペラで何度も来日したジュゼッペ・ジャコミーニ、少し近いところではニール・シコフ。いっぽう、バリトンやバスといった低い声の男性歌手の多くは、口を縦に開け、太く立派な声を出す場合が多いですが、なかには、細く甘い声を売りにしている低声のオペラ歌手もいたりします。
圧倒的に、細く軽いテノールよりも、太く立派なテノールが好きな私ですが、たまたま偶然なのかもしれませんが、ここ数ヶ月ドラマティコのテノールとソプラノばかり耳にして、普通のテノールや軽い声のテノール・ソプラノを、無性に聞きたくなる今日この頃です。(♭Ξ)