発声と音声表現のQ&Aブログ

ヴォイストレーニング専門の研究所内外の質問と、トレーナーと専門家のQ&Aブログです。 あくまで回答したトレーナーの見解であり、研究所全体での統一見解ではありません。また、目的やレベル、個人差により、必ずしもあなたにあてはまるとは限りません。参考までにしてください。 カテゴリーから入ってみると便利です。 【rf :他に詳しく答えているのがあるので、それを参考にしてくださいという表記です。】 引き続き、ご質問もお待ちしています。できるだけ順次とりあげていきます。

Q3808.地声を高い音まで伸ばしたいがどうすればよいか。(3)

A.この問題は、男女によって少し事情が違ってきます。

まず、声を、地声・裏声・頭声・ファルセット・ハイトーン・胸声などと、分別して論じられることは、声楽のそれほど長くない歴史の中で、あまり厳密に定義されることもなく、続いてきました。命名の違いはそれほど大きな問題でもなく、前後の文脈などから、なんとなく理解できることが多かったからかもしれません。また、声楽家の、他の楽器奏者などに比べるとおおらかな性格や、肉体が楽器であるという、楽器自体の客観視のむずかしさも手伝っているのかもしれません。どちらにせよ、声の分別に関しては、用語の混乱が多少ついてまわっていることはたしかです。

さらに、声楽家は、お客様の好みの問題もあり、女性は裏声を、男性は地声を使うのが通常です。そのために、女性の論じる声の分別は、裏声を細かく分別したものであったり、男性は、地声を細かく分別したものであったりします。

これに対し、他のジャンルでは、女性も男性と変わらず、当然のように、楽に中低音の地声を使い、なかには地声高音域をウリにしている女性ヴォーカルもいたりします。しかし、一般的には、声楽の世界と同じ理由から(お客様の好み)なのか、女性は、中低音は地声を使っても、高音域は裏声だったり、裏声とのミックスヴォイスだったりします。いっぽう、男性は、通常、すべての音域で地声なのですが、Jポップでは、最近何年も、男性の高音が流行っていて、裏声を使うのがあたりまえのようになっていたりします。

そんな事情の中で、多くの男性は、やはり地声で高音を出せるようになることを、希望しているようです。いっぽう、声楽以外をめざしている女性の多くも、地声高音域を望んでいるようなのですが、レッスンを進めていくと、実は地声高音域ではなく、裏声とのミックスヴォイスが、実際の目標のようだということも、多々あります。本当の、地声高音域を目標にしている女性は、むしろ少数派かもしれません。

では、地声の高音域を獲得するには、どうすればよいのでしょうか?

戦前から戦後にかけて、オペラ界では、マリオ・デル=モナコというイタリアの名テノール歌手が、大フィーバーしました。彼のウリは、世界で初めて、地声でアクート(高音域)を出せることでした。彼の活躍ぶりは、声楽史上に、燦然と光り輝いています。彼の声は、誰もまねができず、また、まねをすると、声を壊すだけだと言われ続けました。

現代の我々から見ても、たしかにすばらしい声ですが、ぜったいに不可能な声ではありません。また、それまでのテノール歌手とはまったく違うのかというと、実はそうではありません。それまでの伝統にのっとった方法で高音域を獲得し、それを地声らしくしたのです。このように書くと、まるで贋物のように聞こえますが、そこに、用語の混乱が一枚からんでいるのです。ここで言われた地声とは、胸声であり、地声高音域を胸声らしく出したということです。それまでの男性声楽家の高音域は、裏声を強化するか地声をチェンジ(チェンジしてももちろん裏声ではありません)していましたが、どちらも胸声とはまったく異なる響きでした。

つまり、男性声楽家にとって、その当時すでに地声高音域は、可能だったのですが、強化された裏声に似ているうえに、その裏声のほうが立派に感じられたりしたのです。

前置きが長くなりましたが、地声高音域を獲得するには、喉に無理をせず、脱力して、すなおに喉の変化にまかせることです。それをしないかぎり、裏声に移行してしまうことになります。(♭Ξ)