A.感情移入、表情、しぐさに頼らないことです。
役者声というのは、仲代達也さんから江守徹さん、中尾彬さんあたりの、太く芯のあるような声です。これは体の中心で声の芯を捉え、顔面に響きをもってきているのです。発声の理想としては、男女とも欧米の、特にヨーロッパの俳優を参考にしてください。大きく出さなくとも、芯があって遠くまで響く声です。
日本人のトレーナーには、無理に声を落として(声をほる、落とす)わざと太く低い声をつくり、いかにも胸声、体からの声のように聞かせている人がいます。これでは、しぜんに使えません。こういう人の声はそのままでも、歌っても素人っぽい声なのです。
役者声をやめるのは、それが間違っているからではありません。そこでの説得力や声そのものの魅力に捉われず、声を変幻自在に音の世界に解き放つためです。芝居や歌が、声のよさに頼りすぎているのは、よくありません。せりふの意味だけに支えられないようにします。特に歌は、発声が支えます。もしそうでなければ、語っていればよいのです。
一方、ボサノバやジャズなどを歌う日本人の多くには、声の響きとリズムだけで、それっぽくつくっている人が少なくありません。これは歌や音楽のもつダイナミクスに欠けます。全身からしなやかに声が響かないのに、口の中でつくっているからです。(♭)