腹式呼吸という呼吸は、お腹に息を入れることではありません。息は肺にしかはいりません。肺はお腹周辺にはありません。胸郭の中にあります。これは、とても重要なことです。腹式呼吸というと、無条件にお腹を膨らませることだと考える人がいます。
一度実験をしてみましょう。手で鼻と口を押えてみてください。呼吸をしなくても下腹部を膨らますことはできると思います。では次は、手をとっても鼻からでも口からでもよいので気持ちよく息を吸ってみましょう。先ほどよりもお腹の上部が膨らむのがわかりますか。
これができたら、腹式呼吸への第一歩は踏み出せたと同じことです。
腹式呼吸の原理は、胸郭の中にある肺に息が充満し、肺が広がります。その際、肺の下を覆っている横隔膜が下がります。これが腹式呼吸です。
横隔膜が下がった時に、横隔膜の下にある胃が下に押されて、人によってはお腹が出てくるというのが、お腹に息を入れたように感じる原理です。
お腹が膨らむように吸うというのは、腹式呼吸ではありません。むしろ肺に息をいれて胸郭はある程度の位置でキープされているのが腹式呼吸です。状態としては、お腹は引き上げられているかのように感じます。そして息は上の方向へ解き放たれていきます。ブレスを下の方向に向かわせると息が止まったり、下腹部のほうが力んできます。
数十年前は日本でもお腹を膨らませて、丹田で踏ん張るなんてことがあたりまえのように行われてきましたが、人によってはやりすぎて脱腸をおこしたりと健康的にもあまりいいとはいえません。
骨盤底筋やBC筋などは高音域へのアプローチで使うことはありますが、それも下から上にあがる筋肉だと思ってよいでしょう。
お腹を膨らませて、膨らんだお腹をキープするのが腹式呼吸ではなく、肺にしっかりと入って胸郭をキープしながら上の方向へ息を流していくのが腹式呼吸と考えましょう。(♭Σ)