発声と音声表現のQ&Aブログ

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Q. 横隔膜の緊張(アッポッジョ)と、下腹の動きでの支え(ソステーショ)の連動について。

Q. 横隔膜の緊張(アッポッジョ)と、下腹の動きでの支え(ソステーショ)の連動について。
下腹を絞るような「支え」と、横隔膜を緊張するような「支え」を、同時に意識することは難しく、意識を向けるなら、どちらか一つになります。
下腹のほうを重視すれば、横隔膜については、かまわないでよいのでしょうか。
「横隔膜」が緊張している(肋骨下部左右のあたりにぐっと広がる感じがある)ことが、「呼気」に必要なのでしょうか。
声楽で言う「支え」とは、下腹内部の筋肉の収縮と、横隔膜の収縮と、どちらのことを言っているのでしょうか。

 

A.歌声にとって大切なことは、お腹を膨らませて息を吸うこと(腹式呼吸)です。このときの主役が、横隔膜という名の筋肉ですが、体の内部の筋肉なので、自覚しにくいものです。そのために、さまざまな呼吸の練習方法や、「支え」の練習方法が、考案されています。

「支え」とは、乱暴にまとめてしまうと、呼気のコントロールです。強く吐いたり、弱く吐いたり、早く吐いたり、ゆっくり吐いたり。呼気のコントロールのために、どこかに力を入れる(感じる)ことを、「支え」といいます。これによって、歌いやすくなります。

横隔膜の力を抜けば、腹式呼吸で吸った息は出てしまうので、維持します。

一度にたくさん息を吐きたいときは、お腹回りを凹ませる筋肉を、使います。横隔膜が自覚できないというのなら、吸気でお腹が膨らむことを、利用します。

腹式呼吸でお腹が膨らめば、横隔膜が収縮できているので、膨らんだお腹や下腹や背中を活用して、間接的に、横隔膜をコントロールしていきます。この自覚にも、感覚なので2つに分けるよりも、結果として横隔膜がコントロールできていたら、下腹などの動きは、絶対必要なわけではないというしかありません。筋肉は、拮抗する筋肉が存在すると、さらに活躍しやすくなるので、下腹だけでなく、お腹回り、背中回りの筋肉は、鍛えられていると横隔膜のコントロールも、しやすくなります。

([E:#x266D]Ξ)

 

A.下腹が声楽の「支え」について重要な役割をおこなうのはご承知のようなので省きますが、そこを緊張させることは支えではありません。基本的に緊張や力みというものは支えではありません。それはかえって支えを失う結果となりえます。

吸気の際には肋骨が外に押し出されるので、肋骨の外の筋肉を固くしてはいけません。横隔膜は空間を開けているだけなのです。発声がよい人はこれを脱力で行うことができ、そうでない人は力みに頼ります。

支えというのは緊張ではなくバランスです。例えば一本歯下駄やバランスをとる訓練のための器具に乗って歌ってみましょう。歌いづらい音域や高音になるとふらつきませんか。または歌いだすとふらついたりしませんか。そのような人は下半身の体を支えるところがうまくいっていないのでしょう。

丹田、腹斜筋、骨盤、腰、お尻、太もも、ふくらはぎ、足裏、踵、つまさき全てのバランスで倒れないように立ちます。それは力みではなく全体のバランスです。

片足立ちだけでも実感できます。

上半身の脱力と下半身のバランスこそが、支え(アッポッジョの基礎)です。

「緊張」「収縮」「絞る」などの言葉がみられますが、強く体を力むことでは、声楽の場合あまりありません。むしろ緊張などとは逆の方向へ向かうことが重要です。

私の場合は、上記の器具などで歌う前に20分ほど立つだけの訓練をおこなったり器具に乗って歌うこともあります。それでも音がふらつく場合は器具に片足だけで乗って歌うこともあります。

ただしお腹の下(丹田)や腹筋、斜腹筋などを使うなということではありません。使うことと力むことは違うということです。バランスを考えて歌うようになってから昔よりもお腹を使うことが意識しやすくなりました。力まずに。

海外に行くとアッポッジョは「下(お腹)に向かうベクトルの支え」ソステーニョは「下から上に向かうベクトルの支え」という歌い手もいました。

 

以上のことを前提として質問に答えます

・下腹に何かするのか

女性と男性で感じる位置が違うので注意しましょう。男性の方が深いです。骨盤の作りの違いです。吸った息をいれる空間を下腹に感じるくらいでいいと思います。力むことではないです。

・横隔膜の緊張と下腹の支えの連動

基本的には体のすべての動きは連動していると言えるでしょう。下腹がおろそかになると顎もおろしづらくなりますし口腔も開けづらくなります。横隔膜の下腹も連携しています。しかしそれは力みであってはいけません。肋骨周辺のひろがりと下半身のバランスが声のバランスにとても重要です。これがうまくいくと胸より上が力まなくなります。肩があがりやすい、胸が硬くなる人は、まず下半身のバランスやそこから発生する支えがうまくいっていないと考えられます。

・横隔膜の緊張の必要性

広がっていることは重要です。そのために肋骨の広がりは重要です。声楽の支え、共鳴とよばれるもののほとんどは声の密閉のために必要なことです。喉に負担なく声を遠くへとばすためには体の必要な場所を密閉して、時には声も密閉させて遠くへ飛ばします。ホースで水を遠くへ飛ばす原理です。ホースの先を密閉すると少ない水の量でも遠くへ飛ばせます。この密閉を力まずに行うために様残なことを覚えるわけですが、その一環が横隔膜の広がり、

肋骨の広がりです。

・声楽の「支え」は、下腹内部の収縮と横隔膜の収縮とどちらのことか

使うという意味ではどちらも必要ですが、すべてバランスです。支えは声を支えることではなく体を支えることを指しています。アッポッジョは支えるのほかに「もたれ掛かる」「よりそう」などの意味がありますが、歌っていると体幹はぶれて高音域や出しづらい場所にくると体の中が大きくぶれています。これをぶれないようにするために力まずに声がもたれ掛かれる、寄り添えるような体のバランスを保っていることがアッポッジョです。これを改善するためにあえて体がふらつきやすい状況を作って練習することで、体と発声のバランスを整えていくのです。([E:#x266D]Σ)

 

A.歌うときに「支える」ことが必要なのは、横隔膜が元に戻らないように、下げたままを保つためです。歌うときに横隔膜が戻ったら安定した息が保てず、喉で歌う(喉に力みが入る)ことになってしまうからです。

「横隔膜の緊張と下腹の支え」は、ただ呼吸しているだけなら連動はしないでしょう。歌うときに連動するように、トレーニングを重ねるわけです。ただ、私たちは横隔膜の感覚を直接的に体感できません。

ではどうするのか。腹式呼吸では「肺の下の方に息が入る→横隔膜が下がる→内臓が下に押される」という流れです。内臓が押されるので、「肋骨下部左右のあたりにぐっと広がる感じある」です。このとき「内臓が下に押される」状態を保って(支えて)歌うことで、横隔膜が戻らず下がったままを維持するのです。

こう見たときに「下腹内部の筋肉の収縮と横隔膜の収縮」を分けて捉えられないし、下腹だけでなく肋骨の後ろ(背面)・脇腹に手を当てればそこも広がる感じがあるはずです。それらを内包する「身体の支え」という表現がしっくりきます。([E:#x266F]α)

 

A.一言に「支える」と言っても、さまざまな解釈がありますし、メソッドもいくつかあります。同じ「支える」という言葉でも相反する使い方を指す場合もあります。声楽の事例だと、ドイツ式とイタリア式ではお腹の使い方そのものが違います。

今回、アッポッジョやソステーニョというという言葉が使われていること、また、解釈に若干のずれを感じますが、おおよそのお腹の使い方から、イタリア式の発声方法についての質問と解釈し、お話を進めます。

まず「アッポッジョ=横隔膜が緊張すること」と解釈しておられるようですが、これについては少々誤解があるようです。その理由は、ことばの由来から考えればイメージしやすくなるのではないでしょうか。「appoggio」(アッポッジョ)はイタリア語の名詞で「支え」となりますが、これが動詞の「appoggiare」(アッポッジャーレ)になると、「もたせかける」「支える」「置く」「ゆだねる」という意味があります。これは、すなわち「息がもたれかかれる状態」「息が支えられる状態」を意味しているというのが、言葉の語源に沿ったものになると思います。

つまり、appoggioは横隔膜を緊張させることを目的としたものではなく、息を自在に扱えるためのよりどころになってあげることだと解釈してはいかがでしょうか。appoggioが発声上必要な理由は、声帯を懲り固めた発声にならない状態に有効だからです。腹壁下部の主な筋肉には、腹横筋、内腹斜筋、外腹斜筋の3つがあり、骨盤や腰、更には肋骨までつながっています。これらの筋肉と腹直筋が胸郭の下の横隔膜を広げることによって、呼吸にゆとりをもたらせます。

具体的には、呼吸によって胸郭が極端に開いたり閉じたり動き過ぎないことです。息を吸ったときだけ胸郭が開き出していくのと同時に萎んでしまったら、息のよりどころになるとは言えません。

なお、「sostegno」(ソステーニョ)もイタリア語の名詞で「支え」という意味になります。これが動詞になると「sostenere」(ソステネーレ)となり、「(ものを下から)支える」「立つ」「自立する」という意味を持ちます。声楽的な発声の解釈では、息の流れによる支えや息の柱という意味合いがあると思います。語源から考えると、息を下から上に送るということです。

appoggioもsostegnoも、どちらか片方だけではなく、両立させること、そして、そのバランスが重要です。また、それは「緊張や力み」ではないという点が重要です。このように、sostegnoは動的な支え、対するappoggioはそのsostegnoができる状態環境を作ってあげる支えと考えると、両者の関係を理解しやすくなるのではないでしょうか。([E:#x266D]Я)

 

A.息を吸ってその息を保持するには横隔膜の緊張が必要ですが、それを安定的に保つためには下腹、いわゆるお腹の支えが必要です。お腹といっても非常にあいまいです。「丹田」と言われる場所なのか、はたまた、よく指導に用いられる「おしりの穴を絞めて」や「骨盤底筋を引き上げて」なのか迷うことと思います。

横隔膜の機能を安定させて使うためには、腹直筋、腹斜筋、骨盤底筋、背筋、腰回りなど、横隔膜の周りにあるいろいろな筋肉が、きちんと働いている必要があります。それはテーブル(横隔膜)と足(腹直筋、腹斜筋、骨盤底筋)の関係に似ています。土台がしっかりしていなければ、それに隣接する横隔膜は、安定的に機能することはできません。

この部分をどう使っているかは、たとえば腹直筋は、とても長いので、私はみぞおちから恥骨までを長くしたまま使ってみる意識を持ちます。胸を張りすぎていれば逆に腹直筋を縮めることもあります。腹斜筋は胴回りを取り囲んでいるので大きなコルセットに身をゆだねるかのようにして体幹を安定させるべく使います。骨盤底筋はまるで上半身の床だと感じて少し絞めて固くして安定感を感じるようにさせたり、背筋はいわゆるいい姿勢をとって張って使うようにして歌に動員させています。

横隔膜がしっかり使われている状態は、息のコントロールに役立ちます。しっかり声を出すときには肋骨を広げて、胸腔内の圧力を高め、横隔膜でこれを保持しなければ、どんどん息が口から漏れ出て歌など歌えませんので、横隔膜で息をコントロールすることが必要です。

私は「支え」という言葉が混同されているということを、日本の中で常々感じておりました。翻訳の問題かもしれません。横隔膜の支えとして用いられる「appoggio」(名詞)は「支え、支柱、台、援助」という意味で「appoggiare 」(他動詞)だと「もたせ掛ける、立てかける、根拠を置く」、「appoggiarsi」(自動詞)だと=「もたれる、寄りかかる、頼りにする」という意味です。私の感覚だと上から下だったり、前から後ろだったり、重力に任せる感じです。 (辞書によると「ラテン語appodiare 台座の上に安置するが語源」)

一方、おなかの支えとして用いられる「sostegno」(名詞)は「支え、柱、支援」、「sostenere」(他動詞)=「支える、助ける、援助する、持ちこたえる、低下を防ぐ、扶養する、元気づける」 「sostenersi」(自動詞) =「立つ 直立する、暮らしを立てる、活力を保つ」で、私の感覚だと下から上に向かって支えるです。(辞書には「ラテン語sustinere sotto tenere下から支えるが原義」)([E:#x266F]β)

 

A.横隔膜は、ドッグブレスのときに動いている、お腹の上側、肺の下の部分です。下腹部は丹田(へそより10センチほど下)のことで、息吐きのトレーニングを行う際、ここを意識するように習わされる人も多いでしょう。私は横隔膜と下腹部はつながりがあるとイメージしています。

そして理想的な発声=横隔膜の使い方=下腹部の使い方、となるのだと思います。

横隔膜を意識するより、下腹部を意識する方が容易なので、下腹部を意識するように教えています。([E:#x266D]∴)