声楽が、発声や歌唱の正解のように普及したのは、いろんな理由があります。特に日本では、欧化政策の影響と欧米文化への憧れが大きかったということがあるでしょう。
他の分野に比べ、クラシック音楽はオーケストラをはじめ、見事にプログラム化が成されていたからに他なりません。高度に声を扱えるレベルのスターが複数いて、レコードやラジオなどで世界的に普及したたことも大きいと思います。
オペラ、オーケストラの規模は、一見、同一性を目指しているようで、実際は、もっと多様なもの、人、技に支えられています。問われるのは、数、量、均質な全体でなく、個性のある人、個の技の調和なのです。
とはいえ、その結果、観る者(客)と、観られるものを厳密に分け、主体―客体を持ち込みました。それゆえ、コンクールなどを含め、同じ演目のくり返しの演奏、継承のために、統一した基準ができてきました。そして、演目の上達のためのプログラム化、教材化もなされたし、できたのです。
同じメーカーのつくった同じ楽器で、同じ曲を合わせていく。すると、うまい、下手が明確に基準化され、オーディション、コンクールの基準ができます。それを補う方法や教材、教育プログラムも研究されます。
世界中の歌手、歴史的にもすぐれた歌手と比較できるのは、クラシックの強さです。他の歌、民族音楽では、ある地域である時期にできても、クラシックほど広汎にサンプルや基準をとれません。
科学は、物理学や生理学的に、発声について詳しく説明しようとしていますが、あくまで、発声モデルの解説なのです。トレーニングによる変化などについては、解明されていません。
ヴォイトレは、発声法として扱われてきましたが、歌手には、必要悪でした。声の仕組みや原理にこだわることで正すのでなく、歌の聞き方とイメージで感覚的にとり入れて、一方で自らの体でもっともよい使い方を学んでいくようにしてください。