発声と音声表現のQ&Aブログ

ヴォイストレーニング専門の研究所内外の質問と、トレーナーと専門家のQ&Aブログです。 あくまで回答したトレーナーの見解であり、研究所全体での統一見解ではありません。また、目的やレベル、個人差により、必ずしもあなたにあてはまるとは限りません。参考までにしてください。 カテゴリーから入ってみると便利です。 【rf :他に詳しく答えているのがあるので、それを参考にしてくださいという表記です。】 引き続き、ご質問もお待ちしています。できるだけ順次とりあげていきます。

Q. デックングについて教えてください。

.デックングは、ジラーレと同じような意味で使われる場合も少なくないようですが、デックングは「被う。包む。」、ジラーレは「曲げる。回す。」と、まったく違う意味を表します。どちらも高音域の発声に関して、よく使われるので、レッスンを受ける側としては誤解が生じ、誤用が広まったのでしょう。

今は、交通機関や、情報伝達網の進化で、グローバル化が著しく、オペラ歌手の声に関しても地域色がとても薄くなっている気がします。以前は、イタリアオペラの声とドイツオペラの声は、まったくと言っていいほど違ったのです。デックングは、ドイツ語なので、ドイツ的な声楽の発声法の用語として、私はとらえています。文字通り、声を被う、包む、むき出しにしない。(行き過ぎると、明るく輝かしいのはもってのほか、とイタリア的発声の全否定にもつながりかねませんので要注意です。)

そのために必要なのは、軟口蓋を適度に挙げて、口の奥を広めに空けたまま、声を出すことです。たったそれだけですが、軟口蓋を挙げるトレーニングと、口の奥を広げるトレーニングを、充分に繰り返してはじめて、楽にこれができるようになるのです。(♭Ξ)

 

.ドイツ語で「かぶせる、おおう」といった意味で、声楽の指導の際によく使われる用語です。言葉の意味としてはイタリア語のキゥーゾ、英語のカバーとも同じです。声を開き過ぎたり、明るく過ぎるときによく使われます。また、ある一定の音域から音域への移行の際に使われることが多いですね。チェンジの位置、パッサッジョと呼ばれる声が低音域から中音域、中音域から高音域への移行の音域で声楽的技術として音をジラーレ(まげる)しながら歌う必要があります。その際、声が明るすぎるとうまくいかないことが多いのでカバー、キゥーゾ、デックングといった言葉がでてきます。これは指導者がどこで勉強したか、または指導者の得意な声楽ジャンルでも言い方が変わってくるかと思います。

パヴァロッティの師匠であるアッリーゴポーラは「声はカヴァーしたりオープンにしながら歌わなければいけない」といっています。しかし、現場で出てくるデックングの意味あいとして「おおう」というよりも「暗く」という印象をうけることが多いです。発音を暗く、音色を暗くという印象がほとんどです。

デックングがドイツ語という面もあります。テノール歌手がわかりやすいのですが、イタリアのテノール歌手とドイツのテノール歌手は明らかに声が違います。これは骨格や言語によるところが大きいですが、ドイツの歌手はイタリアの歌手よりも太い、暗い、丸い、などの印象をうけます。その結果、イタリア語の作品のようにドイツ作品を歌うと明るすぎるという指導が入り、もっとデックングでという言葉がでてくるのだと思います。実際にドイツ語には開いたオ、閉じたオなど日本語やイタリア語よりも多数の母音があります。暗い母音が多いのも事実です。

しかしイタリアにもキアーロ・スクーロという発声の考え方があります。直訳としては「明暗」です。明るくだしたり、時には音域により暗く出す必要があるという発声のメソードです。実際にすべてを明るく歌うということもないので実際に指導者からデックングという言葉がでてきたら暗く、おおうようなイメージをもつとよいかもしれません。(♭Σ)

 

.発声で高音域のとき喉が上がることを回避するための技法と言えます。また「おおう」という意味からも、母音はやや暗めになります。

私はドイツの音楽大学にいた時期がありますが、実技は全て他の国籍の先生だったからか、私自身は「デックング」での指導を受けた覚えがありません。(またはデックングと言われたところでピンとこなくて覚えがなかったのかもしれません。)よって私自身の経験からくるものはないので、私のレッスンでデックングという言葉を使うことはありません。

ヨーロッパでは、世界的に活躍してきた声楽歌手たちは皆イタリア語、ドイツ語などを普通に話します。ドイツ語でのレッスンでもうまく表現したいときはイタリア語を出してくることもよくありました。今振り返るとデックングではなく「ジラーレ」で指導されていたと思います。(♯α)

 

.ドイツ人の先生やドイツ物の曲を演奏する際に、発声用語として用いられることがあると思います。顎を下げたり口先を開け過ぎないなど、使われる意味合いとしては、イタリア語でいうジラーレに近い部分があるのではないかと思います。

モーツァルトのオペラによく出てくる“sotto voce”で指示されている部分を歌うときなどにも、このテクニックは役に立つのではないかと思います。

ジラーレ同様、奥まった部分を通過する制御により、高音域で花開く方向に道筋につながったり、その過程として、ppのように弱々しい(けれども客席の一番遠くまで届くような)状態で歌うようなことに必要不可欠だと思います。

デックングもジラーレも声楽的には非常に重要なテクニックです。しかし、これらをマスターするためには、指導ができるトレーナーの下で時間をかけてなじませることが重要です。自分自身で判断せず、指導者のもとで時間をかけて、少しずつ確実にマスターしていくことをお勧めします。(♭Я)

 

.音を曲げること、気道から口蓋にかけて息の通り道はまるで直角のように曲がっていますが、声もこのように、曲げる必要があるという、数ある歌唱法のメソッドの一つです。デックンはドイツ語ですが、イタリア語ではgirareとよんだり、英語ではcoverとよんだりします。つまり欧米では割と共通認識の技法なのでしょう。

私は、今はあまりこの技法を意識しません。(私が高音を歌う声種だからなのかもしれませんし、今の発達段階で必要がないのかもしれません。今はストレートに出すことを心がけています。初期のころは意識していました。)

この概念は声楽の初歩の学生には必要な要素かもしれません。ただ何も考えずに声を出しているときは、声の方向性も上方向に一辺倒かもしれないのですが、ある程度の高さになったらこの技術で、声を曲げるように、また英語の発想で言えば、声を上からカバーするかのように、イタリア語の発想で言えば、声を曲げて、歌うことで声をまろやかにすることができると思います。

直線的に出してしまうと、喉が力みやすく、力が入ったままの声になりがちです。このデックングの技法を応用することでまろやかな音色に加えて、声の負担を減らすことができると思います。(♯β)

 

.デックングとは、喉頭をリラックスさせ低い位置に保ち、声帯を伸展させ、丸みのある響きを作ることを言います。

簡単に言うと、「あくびの位置」を思い浮かべていただくとよいと思います。喉頭が下がり、声がクラシック歌手のような響きを持つポイントがあると思います。クラシックの発声法としてひろく知られていますが、この喉頭の使い方はクラシックだけではなく他のジャンルの歌唱にも応用でき、頭声と胸声(いわゆる裏声と地声)のバランスをとりながら広い音域を歌うのに必要だと考えています。ミックスヴォイスの習得にも欠かせない要素の1つとして、必要に応じてトレーニングに取り入れています。

いろいろな声を出すことに慣れていない場合は少し違和感があるかもしれませんが、声のストレッチのつもりでチャレンジしてみるとよいと思います。(♯ё)

 

.ディクングとは、「被せる」ということで、ジラーレのように息を後頭部付近で回すように発声をします。声楽、オペラにおいて、転換区の高音域(ソプラノ、テノールの場合ミからソ、アルト、バリトン、バスの場合ドからミの辺り)を発する際に有効と思われます。

この音域をまっすぐ裸のまま前方にのみ発すると、声そのものが出にくい、音程が下がる、非アカデミックな声になる、喉に負担がかかる。という弊害が生じます。そのような経験をされた人は多いと思います。

そこで、このディクングという被せる発声を使いますと、声そのものの質が向上する(アカデミックな声になる)、声が出しやすくなる、音程がとりやすくなる(キチンと音程がハマるようになる)、喉の負担が減少する、何より音域が広がっていき、転換区より上の音域が楽に発することが可能になる。というメリットが生じます。

ただ、このテクニックが過剰になりますと声を掘る感じになり、声が籠ったり、飛ばなくなる可能性も考えられます。バランスよくディクングを使うことが重要です。(♭й)

 

.高い音を出す時、声を被せる。声に丸みを持って柔らかい響きにするための喉頭を下げ、口唇の開口を減らし、顎を引くなどの一連の動作です。

口の中を開け、声を自分の背中など後ろから前に届けるようなイメージです。また、これらの感覚を使い、低い音から高い音へのチェンジの際に使います。ジラーレなどと共通の要素を持ちます。初めは手などで声の動線を描いたりしながらイメージし、「被せる」「包む」声をイメージするとよいかもしれません。(♭Ц)