A:型にはまったような役者っぽいセリフの言い方というのは間違っていると思います。しかし、自然に言おうとするのも初期のトレーニングとしてはよいとはいえません。自然というのが、今の自分の見えている枠の中での自然であるから、これから枠を広げようというときにはその枠を超える努力も必要です。
以前シャンソンとカンツォーネを習っていたときの先生に、はじめはカンツォーネから勉強することをすすめられました。シャンソンで語るように歌うのをはじめから意識してしまうと、四畳半の狭い世界から出られなくなる危険がある。だから、スケールの大きなカンツォーネで張って歌うことをやってみたほうがよいという理由です。
大きく張って声を出せればその対極にある自然な出し方もできるので、そのぶん表現の幅が広がります。表現するなら枠の中での自然を目指すより、枠を壊し、破れて飛び散ってしまってから、どう拾い集めていくかというように考えたほうがよいと思います。
観客には、セリフ自体の意味よりも、その役者から発される「気」のようなものと、それが現れた声のトーンにより伝わる要素が大きいのです。ですからセリフを言う以前に自分の内部で回っているものが大事です。(ゲスト役者:K)