発声と音声表現のQ&Aブログ

ヴォイストレーニング専門の研究所内外の質問と、トレーナーと専門家のQ&Aブログです。 あくまで回答したトレーナーの見解であり、研究所全体での統一見解ではありません。また、目的やレベル、個人差により、必ずしもあなたにあてはまるとは限りません。参考までにしてください。 カテゴリーから入ってみると便利です。 【rf :他に詳しく答えているのがあるので、それを参考にしてくださいという表記です。】 引き続き、ご質問もお待ちしています。できるだけ順次とりあげていきます。

Q.感情表現をうまく歌に生かすには、どうすればよいですか。

A. いくら豊かな感情をもっていても、それを声で表せないと、人に伝えることはできません。

 

まずは、発声の問題です。感情が声にうまく出ないのには、さまざまな理由があります。特に多いのは出そうとしている高さの音での自然な声質(音色)とその響き(フレージング)がしっかりとイメージできていないのに、無理に声で大きく出そうとしてしまうことです。イメージする音色を出すために、ヴォイストレーニングが必要なのに、これでは本末転倒です。

 

呼吸に対し声帯の調節が適切に行なわれないまま、無理にぶつけると、うまく音にのりません。声帯に負担をかけずにうまく声にできるまで待つことです。単に強く歌えばよいというものではありません。

 

声の強さは、リラックスした感じで出せるくらいで、そこから、強くしても弱くしても、音楽的緊張は高まります。強くするときだけテンションを高め、弱くするときに抜くのでなく、弱いところこそ、きちんとキープしなくては、表現はもちません。日本人なら、「弱める」「小さくする」ことなどを考えずに「強くする」「鋭くする」ことで踏み込んだら、おのずとそうなるというように覚えた方がよいでしょう。大きく伸びたければ、決してまとめないように。まとまってくるまで待つことです。

 

もう一つは、歌の音楽的構成での見せ方の問題です。ここでは無駄な感情移入や雑な表現は整理しなくてはなりません。テーマを表現し切るクライマックスは、その作品を決定していくピークにあたります。このピークに対し、どのようにフレーズを組み立てていくのかを考えることが、歌の構成、展開上ではとても大切です。ドラマの起承転結のように、多くの歌は、4つに分けていくとわかりやすいでしょう。(4ブロック、4フレーズ×4)ピークに対しても、歌い手の感情を入れるのではなく、聴く方の感情に訴えるように展開し構成するのです。心をもっていきながらも、音楽の規則性(リピート、コード進行、グルーヴ)を最大限、利用します。最終的に、一曲を一本につなぎます。

 

といっても、1コーラス、あるいはAメロ、Bメロ、サビと、ブロックごとを一本に通すことができたら、充分です。

 

感情表現を歌が必要とするとは限りません。私は、歌を音楽的に捉えるなら、バイオリニストやピアニスト以上の感情は、投入すべきでないと思います。声はただでさえ、感情的なものだからです。しかし、逆に発声技術や音楽性に乏しいヴォーカリストでも感情の伝わる声や感情移入でもたせることができるのは確かです。私としては、感情というより、魂(ソウル)や心(ハート)、せめて気持ちと呼びたいのですが、感情ということばは誤解しかねません。(♭π)

 

 

A. まず、一番簡単な方法は、歌詞の朗読練習でしょう。気持ちを込めて、歌詞を朗読するのは、歌うのとは違い、意外に照れくさかったり、人によっては、とてもやりやすかったりします。少なくとも、歌うのとは違い、新たな発見が有るものです。さらに、歌詞を、深く読み込んでいくことも、大切な手がかりになります。

いくら、感情表現をしたくても、目的地が見えないのでは、取り組みようがありません。しっかり、深読みをしていくことも、大きな助けになります。

これとは別に、歌詞や曲想とは全く違う、いろいろな感情で歌ってみることも、有意義な練習になります。その曲には相応しくない感情でも、歌ってみることです。例えば、とても明るい曲を、暗く悲しげに歌ってみたり、悲しい曲を、明るく楽しく、元気ハツラツと歌ってみるのです。意外に、それほど難しくないのが、わかると思います。曲想は曲想ですが、それを歌手がどう歌うかによって、曲の印象は大きく変わるのです。

さらに練習が進むと、感情がこもり過ぎ、発声にも影響が出て、気持ちは伝わっても、ご自分としては嫌な声になる可能性もあります。声を取るか、気持ちを取るか、それはあなたの考え方しだいです。ただし、気持ちを選んで、喉を傷めないように気を付けましょう。また、気持ちがこもり過ぎ、感情が溢れ過ぎて、歌えなくなることさえ、出てくるでしょう。それを経験することで、どの程度感情を込めてもよいのか、臨界点も見えてくるのです。(♭Ξ)

 

 

A. 声の状態によりますが、人によっては表現をしなくていいというアドバイスをすることがあります。あるレベルまでいくと変わってくるのですが、特に基礎をしっかりとやるような時期には感情表現というのはトレーニングにおいてリスクになりやすいです。

歌をうたう、言葉をしゃべるということそのものが既に感情表現と密接の状態です。

例えば楽器なども、指が動く、息が続くなどの基礎ができていない状態では、演奏できる曲そのものが限られてきます。指が動く、息が続くなどの演奏能力と感情表現は違うベクトルの話なのです。

歌の場合、その曲に必要な音域がないと演奏することが困難になります。ある一定の声量などもそうでしょう。それらの演奏能力がある程度ついてきてはじめて感情表現のことをアドバイスすることがあります。

しかし、最初から感情表現をアドバイスすることもあります。歌うと息の流れが止まって聞こえたり、喉への締め付けが強い人には、表現から入って息をうまく流す方向のアドバイスもあります。

感情表現というのは、ブレスからすでに始まっていて、その表現を聞き手に訴えるだけの声の力がいります。声の強弱をコントロールする力も必要です。その意味では声をしっかりとだすという単純なようで日本人が弱い部分をトレーニングすることで感情表現を歌にいかすということになっていきやすいです。体を使って声を開放するということは、そこに歌詞やメロディがあるのですから自然に表現がついてくることが多くなります。

ある程度声の基礎力があっても感情表現がうまくいかない人は、役者のように台詞を朗読してみましょう。体をつかって歌詞を朗読してください。それだけでもずいぶんと効果がでてくるでしょう。(♭Σ)

 

 

A. 新しい曲を始めるとき、アプローチの仕方はさまざまあると思います。大抵の場合は音と歌詞を同時に練習する人が多いと思います。曲に慣れるまではその練習方法でもいいのですが、さらに曲を作り上げるには、いったん旋律と歌詞を切り離して、歌詞だけを発音する・歌詞に向き合うという方法をとると、感情表現に効果的です。

旋律と歌詞をセットで捉えたままだと、旋律だけになったときに音程やリズムが不安定になったり、歌詞だけ発音してみたら言葉が出てきにくい、ということが起こります。それはつまり、歌詞がまだ定着していない、自分の中に入っていないということです。そのような中で感情を乗せようとしても歌を邪魔するだけです。歌詞だけを取り出し、発音しながら言葉の意味を感じる、言葉の運びを把握する、感情を込めて朗読してみる、といった作業をしてみてください。その後でメロディをつけてみると、発音練習でのあなたの表現がそのまま歌に乗っていきます。(♯α)

 

 

A. いろいろな見解があるだろうと思いますが、歌詞の内容を朗読した時点で、客観的な観点で内容が伝わりやすい状態に聞こえるか、オペラやミュージカルなら、ドラマが見える状態になっているか、登場人物のキャラクターで歌うことができているかという部分ではないかと思います。

「歌を歌う」ということについて、「音やリズムで何か表現しよう」と考える人が多いと思うのですが、「歌詞」や「ドラマ」がある以上、最優先に考えるものは「ことばの語り方」だと思います。これを無視すると、単語をぶった切るようにブレスをとったり、高音域の音にばかり意識が向いて、ことばのニュアンスを壊したような「音優先」の歌い方になってしまうと思います。

自分が小学生の時の音楽の授業では、「文脈の切れ目でもないところでブレスをとるなんて、意味の伝わりにくい歌い方をするのはとんでもないことだ。日常の会話ではそんなことはしないはずだ。」と厳しく教わったものですが、最近のポップスには文脈優先よりも音優先の傾向が多いように感じてなりません。

音優先よりも歌詞優先で歌うことを、ぜひ大事にしてください。どう語りたいのかを良く考えて、歌詞の朗読感を活かしつつ、音楽的な表現を取り入れられると、更に素敵になるでしょう。(♭Я)

 

 

A. 歌詞をたくさん音読して下さい。歌に感情がこもらない人の多くは、いきなり「歌」の練習をしています。その前に、メロディを覚えるのでなく、歌詞を味わい、声に出して音読しましょう。

イメージをずっとずっと濃くしていくことが大切です。感情表現そのものをもっともっと豊かにしましょう。また声そのものを大きくしていきましょう。

声を全力で出すという経験をあまりせずに大人になる人が多くなりました。子供に戻って、喜怒哀楽を全力で声で表現してみましょう。怒っている「何やってんだ!!」、悲しい(全力で泣く)、嬉しい「ねえねえ聴いて!!」、など。セリフとともに、大声で体を使って表現してみましょう。また全力で大声で1分間笑ってみましょう。

感情を表現するには、表現者自身に大きな感情の動きが必要です。大きな感情の動きがないという自覚のある人は、何歳になっても遅くありませんので、本を読んだり映画を見たりしましょう。本や映画の世界は「何でもあり」ですよね。その虚構で皆が涙を流します。それこそが歌の仕事です。

古代ギリシアでは悲劇を見て、涙を流すことが魂の浄化につながるとされていました。その役目は現代では歌にあると信じています!表現者である私たちがまず、だれよりも泣き、笑いましょう。暗いニュースにあふれている今だからこそ、もっと笑いましょう。(♭∴)

 

 

A. 私は歌で感情表現をするにあたってあまり困ったことがないのです。

余談ですが、以前に憧れの歌手のレッスンを受けにイギリスまで行ったことがあります。「天使の歌声」と称えられる彼女から貰ったアドバイスは「自然に歌えばいいのよ」ということのみ。私が知りたかったのは「どうすれば」自然に歌えるか、だったのに。彼女に非はありません。私が訊く相手を間違えたのです。

歌での感情表現が苦手な人は、そもそも普段の表情が乏しく、話し声が小さく、話下手な方が多いように見受けます。つまり歌以前の性格の問題です。

荒療治ではありますが、本気で何とかしたいなら接客や営業や電話応対のバイトなどやってみてはいかがでしょうか。相当メンタルが鍛えられます。メンタルを病む原因にもなりかねない諸刃の剣ですので、無理なら辞めるぐらいの気持ちでやってみるといいと思います。(♯∂)