発声と音声表現のQ&Aブログ

ヴォイストレーニング専門の研究所内外の質問と、トレーナーと専門家のQ&Aブログです。 あくまで回答したトレーナーの見解であり、研究所全体での統一見解ではありません。また、目的やレベル、個人差により、必ずしもあなたにあてはまるとは限りません。参考までにしてください。 カテゴリーから入ってみると便利です。 【rf :他に詳しく答えているのがあるので、それを参考にしてくださいという表記です。】 引き続き、ご質問もお待ちしています。できるだけ順次とりあげていきます。

Q.歌で陥りやすい“まね”のチェックを教えてください。

A. よくいるタイプをあげておきますので参考にしてください。歌には、[自分の表現を自分の呼吸で声としてとり出すことが基本]です。その[作品はリアリティ(立体感、生命力)に、あふれている]かどうかでしょう。しかし、次のような場合も、状況さえそぐえば、大化けすることもあります。歌というものは、おもしろいですね。日本人(客)の好みも反映されます。

 

[唱歌コーラス・ハモネプ風] ・・・感じられない、得意ソウ、“うざい”

 唱歌風の歌い方は、発声トレーニングを受けてきた人に多くみられます。共鳴に頼りすぎて、ヴォリューム感やメリハリがない。一本調子、正確さだけが取り柄で、おもしろみがない。つまり、誰が歌っても同じ、その人の個性や思いが出てこないのです。

 合唱団、音大生、プロダクションの歌手、トレーナーなど、正規の教育を受けてきた人にもよくみられます。音楽を表現するのに必要なパワー、インパクト、リズム・グルーヴ感がないのです。生まれつきの声のよさだけに頼ってきた人にも多いです。先生の言うままにつくられた“日本では、歌がうまいといわれる”優等生タイプです。

 

[アイドル型・タレント型]・・・やっていることがわからない、カワイイ、“ガキっぽい”

 しゃべり声で、甘えた感じで歌う。喉声にならないように浮かし、やや発音不明瞭で鼻についた声です。タレント型ヴォーカルに多くみられます。他の人がやると、くせのまねにしかなりません。カラオケでは目標とされています。

とはいえ、高度なレベルでは、ニューミュージックやJ-POP、演歌の歌い手など、声が高く生まれついただけで、作詞・作曲・アレンジ力で通用しているヴォーカリストにも多いようです。他のタイプの人には、真似て百害あって一利なしです。

 

[役者型、喉シャウト型、語り調]・・・のれない、くさい、“くどい”

 ことばを強く出し、せりふとして感情移入でもたせます。個性やパフォーマンス、演技からくる表現力でもたせているため、呼吸がことばに重きをおく反面、音楽性、グルーヴ感に欠けます。存在感とインパクトの強さで、個性的なステージになります。シャウトもどきの声でやる人は、調子をくずしやすく、選曲のよしあしでよくも悪くもなります。もう一つは語り調で、雰囲気づくりにたけ、ぼそぼそと歌うタイプです。テンポ感、リズム、ピッチに、甘いです。

 

[]日本のシャンソン風、ジャズ風・・・格好ヨサソウ、インパクトがない、“たいくつ”

 上品さや気品を上っつらだけをまねた、自己陶酔っぽい歌い方です。中途半端に声楽家離れしない人や役者出身者に多いのが特長です。それで通じた昭和の時代は、古く遠くなりつつあるように思います。

鋭い音楽性、深くパワフルな声のない語りものの日本のジャズもまた、雰囲気好きの日本人に期待された結果の産物だったのでしょう。センスとパワーの一致を望みたいものです。

 

[日本のオペラ、カンツォーネ風]・・・押し付けがましい、自慢げ、声だけ“うるさい”

 声の美しさ、響きに頼った歌い方で、個性や表現の意志に欠けます。声量だけは感じさせるのですが、一流の声楽家や本物の歌い手と比べられて聞かれるので、マイナス面をみられがちです。発声や技術が前に出てしまい、人間性が感じられない。不自然な表情や動きになります。

 

[日本のブラック、ゴスペル、ラップ風]・・・なんか変、みせかけ、ちぐはぐ“ウソッポイ”

洋ものを真似て、声をハスキーにしたり、やわらかく使う表面的な歌い方に終始しています。日本人特有の雰囲気、甘さ、コミュニケーション先行で、厳しさやしまりがないため、おもしろさに欠けた退屈なものになりがちです。精神性が感じられず、洗脳されたような薄気味悪さがあります。ビジュアル、笑顔、一体感、振りなどの演出に逃げ、個としてのパワー、インパクトに欠けます。しかし、不思議に日本人はそういう歌い方を評価するようです。

こういった多くの歌い方は、世界で受け入れられたアーティストの個性や雰囲気を、表面的に真似て、インスタント加工したものです。体、呼吸、心、音といった根本での声、歌、音楽の生まれる条件を、踏んでいないのです。ピカソシャガールの絵を真似て、上手といっているようなものです。それで通用してしまう日本の状況が、私は有望なヴォーカリストにまで才能を甘んじさせているように思います。トレーニングとして、自分の声や歌を知る材料として出してみました。(♭π)

 

 

A. とても難しいことかもしれませんが、歌う曲を、耳コピしないことです。耳コピから入ってしまうと、どうしても、声や歌い方のスタイルが影響されてしまい、「まね」るつもりがなくても、「まね」に近くなってしまいます。可能ならば、楽譜を手に入れて、楽譜どおりに歌う練習をすることです。たいていの場合、楽譜どおりに歌うだけで、「まね」からは、ほど遠くなるはずです。

それでも、好きな声・お気に入りのアーティストがいて、どうしても目指したいのなら、声だけを「まね」て、歌うスタイルは、「まね」しないことです。曲は、必ず楽譜を用意して、細部まで検討し、構成や歌い方を、自分なりに突き詰めていけば、「まね」ではない、オリジナルの歌い方が、確立できていくでしょう。ヒットした曲は、どうしても、その歌手の、独特な声や、独特の歌いまわしなどが、セットになって人々の耳に残っているので、そのように歌いたくもなってしまいますが、「まね」にならないためには、そこが重要なキーポイントになります。(♭Ξ)

 

 

A. 自分で自分のチェックをする際にとても大事なのは、耳を育てられているかということです。声の勉強をするためには、声や喉だけでなく耳が必要です。数多くの動画、録音を聞いてみてください。その際に今はやっている曲だけでなく、多くのアーティストにカバーされているような古い曲を多く聞いてみるといいでしょう。カバーされていることが多い作品は、複数のアーティストによってそれぞれのアレンジを確認することができます。このようなことを繰り返していくと、オリジナルとカバーの違いが自分の中で消化されていき、自分の歌にプラスに働いていくでしょう。また、カバーしている複数のアーティストの歌い癖などをまねて歌ってみるのもいいでしょう。あえて複数の人をまねてみて自分の中に表現のストックを増やすのです。そうしていくうちに何がまねで何がまねではないのかが自分の中で整理されていきます。

私自身も同じ曲をさまざまなアーティストで聞いてそれぞれの解釈や表現、発音の違いを楽譜やノートにまとめることがあります。そうすることで、どのような解釈や表現、発音の程度が自分として好きなのか、効果が高いのかなどが腑に落ちます。

その意味では新しい曲や自分が好きなアーティストだけでなく、さまざまなアーティストを聞いてみるのも大事です。

逆にこのように耳を育てていくことで何故自分がこの曲を好きなのか、このアーティストが好きなのか、このような歌いまわしが好きなのかなどが理解できてきます。(♭Σ)

 

 

A. 「まね」=悪いこと、と捉えているように見受けますが、ひとことで「まね」といっても、真似をする内容によってそれがよいか悪いかの捉え方は違ってくると思います。例えば、リズムやテンポ感が遅れる人は、発音やブレスのタイミングをまねしてみることで、テンポに間に合う・テンポに乗るという感覚を学ぶことができます。または、歌い方が一辺倒になってしまう人は、声の強弱から何からフレージングをそのまままねしてみることで、今までになかったダイナミックさを知ることができます。逆に、その歌手のよくない歌い癖や、歌手の声そのものに近づけようとする「まね」は、自分の歌を邪魔してしまいます。この場合は、前屈になって歌うとそのチェックができます。具体的には、前屈で頭が持ち上がらないようにして(頭はダランと下げたままで)歌います。歌い癖や声まねは、必ず何かしらの無理があるので、前屈で歌うと頭が持ち上がりたくなるのです。その分だけ余計な力みが入っていたことがわかります。ちなみに、前屈し頭を下げたままでしばらく歌い続けると、その力みもちゃんと解消することができます。(♯α)

 

 

A. 「まね」と思われるような現象はいくつかあると思います。例えば、その曲を持ち曲としているアーティストがいる場合、そのアーティストに近づけるよう、声質を似せようとしたり、歌いまわしを似せようとしたり、いわゆる「ものまね」状態になってしまうことです。他にも、「誰かがそう歌ってたから」という理由で、その人の歌い方をまねするような状態になっていると危険だと思います。

人それぞれ、声の出し方、歌い方、詞や音楽から受け取る感情など、違って当然だと思うのですが、誰かの型にはめ込んだように歌うというのは、ほとんどの人は不自然になると思います。まねから脱したいのであれば、そのアーティストの音も感性も歌いまわしも、一度すべてきれいさっぱり捨てることです。その上で、自分なりに詞と音楽から湧く感情、自分に合った発声方法や音域、自分として実現できる、聞き手に対して表現も含めて自然に聞こえる歌いまわしなどを研究することがとても大事だと思います。(♭Я)

 

 

A. やりたくないのについついしてしまう。それが、有名なヴォーカリストのまねです。チェック法の前に、そもそもなぜまねてしまうのでしょうか。それは、好きなヴォーカリストをよく聞いてしまうからです。

好きな曲を練習するとします。ところで、その曲を大好きになったのはオリジナルの何かを聞いたあるいは見たことが圧倒的に多いですよね。だからその曲を練習するのに、まずその録音を聞きこみたくなるものです。しかし、ぜひ聞かずに歌詞から次のように練習してください。

私のおすすめの練習法は、まず歌詞から入ることです。歌詞をまずは黙読し、イメージを膨らませます。気温、匂いなど、妄想で構わないので、具体的にイメージします。我々表現者は、普通の人の100倍ほど強くイメージできるようにしましょう。それから、音読に入ります。歌のイメージを切り離して、「朗読」だけで通じるように練習します。つまり、歌のフレージングは無視して、言葉だけで作品にするのです。

次に、言葉から自然に歌にしていきます。音程ありきでなく、歌詞ありきで曲を勉強するのです。言葉を自分の口で口ずさみながら、少しずつ歌っぽくしていきます。

このように歌詞から作ると、ほかの誰の物まねでもない、あなただけの歌唱になります。ちなみにプロのクラシックの演奏家でも、音源を聞くべきかどうかは人によります。私の師は録音を聞くのに反対で、楽譜と自分の体に向き合うように、とのことです。(♭∴)

 

 

A. 例えば桑田佳祐さんの歌いまわしは、とてもまねしやすいと思います。日本語をまるで外国語のように扱うという非常に強烈な特徴があるからです。しかし下手な歌手がそれをまねすると、とても聞けたものじゃなくなります。それは桑田さんの歌い方に罪があるのではなく、わかりやすい表層だけをなぞった側の罪です。彼の歌の本質にある、しなやかな息の流れや力強い声をまねできていないから不快なのです。

このように、わかりやすい部分こそが陥りやすいまねポイントです。よくあるのがフレーズの頭で音をずり上げるクセや、息を吸うときに大きな音を立ててしまうクセです。

どんな曲でも、一度プレーンに練習してみましょう。文部省唱歌を歌うイメージです。なんの飾りも個性も出さずに歌うのはつまらないかもしれませんが、この練習が強固な骨格を作ってくれます。それがきちんとできたなら、私はまねをして構わないと思います。むしろいろんなまねをして表現の幅を広げてこそ、自分自身のオリジナルの表現方法が編み出せるものです。(♯∂)