A.声楽家に対して、持つ声のイメージというのは、日本では必ずしも的を得たものではありません。実際の歌手への発声も本場のオペラ歌手とは、やや異なるといってもよいでしょう。しぜんに自分の中心の声を使うよりも、先生に教えられるやわらかな声に傾く人が多く、ドラマチックな迫力がなくなってきました。それが時代の要請とともに、日本人の限界を見据えた処方だったとしたら、まさにポップスと同じことが起きたといえるわけです。
本場のものをみたことのない人は、日本人の弱く美しくやわらかい音色に対し、向こうの迫力にびっくりするかもしれません。一説には、その人の体の中心の声を伸ばすイタリアと、師のコピーを徹底するドイツの違いがあるそうです。そうであれば、日本の声楽が後者になっていくのはよくわかります。私は前者の立場をとっています。(♭)