A.できるだけ声もことばも、歌も音楽もなるべく使わないで、相手の心を動そうと考えてください。
日本人は、たくさん歌う人や長い曲をやる人、演奏会のとりで歌う人が、すぐれていると思っているのでしょうか。たった一曲、短いフレーズを、最初に、誰の心にも大きな印象を与えるほうが、よりすぐれているというものです。できることなら、何もやらず、舞台に出ただけでスタンディングオベーションが起こる、というのが最高です。そこまでの実績を積んでいきたいものです。曲数や持ち時間を増やすのは、サービスでなく、未熟さのカバーなのです。
私は、プロの曲を聴くのに、1、2、3番のAメロを並べて、チェックします。基本としてはずしてはいけない流れのなかで、変化させているかをみます。ことばや発音は一要素にすぎません。
気づかせにくいときは、同じことばで繰り返して歌ってもらいます。たとえば、Aメロの最初のフレーズ(1、2、3、4)のことばで、次のAメロも歌うと、その流れがみえます。同じにしても、異なってもよいのですが、ヴォーカリストにその自覚がなく勝手に、しかも毎回変わっているようでは、失格です。ときにBメロさえも、Aメロの歌詞でやらせます。
1、2くらいの短いことばで、すべて歌ってみてもよいでしょう。たとえば、「あなたに会った」の繰り返しだけで一曲を通すのです。聴いている人が飽きたり、あなた自身が単調に思えたら、それはまだ曲として成り立っていないのです。歌はストーリーでももちますが、曲として完成させられるなら、どんなことばでも、一曲のなかで完成させられるはずです。それができない人のスキャットなどは、まだ形だけなのです。(♭)