発声と音声表現のQ&Aブログ

ヴォイストレーニング専門の研究所内外の質問と、トレーナーと専門家のQ&Aブログです。 あくまで回答したトレーナーの見解であり、研究所全体での統一見解ではありません。また、目的やレベル、個人差により、必ずしもあなたにあてはまるとは限りません。参考までにしてください。 カテゴリーから入ってみると便利です。 【rf :他に詳しく答えているのがあるので、それを参考にしてくださいという表記です。】 引き続き、ご質問もお待ちしています。できるだけ順次とりあげていきます。

Q.ほかの人の演奏も聴いたほうがいいのですか?モノマネになっちゃいけないと思うのですが。

Q.ほかの人の演奏も聴いたほうがいいのですか?モノマネになっちゃいけないと思うのですが。

A.理想の音を頭に入れる必要性があるため、過去のみならず現在の名演奏家の演奏はジャンルを問わず聞くべきだと思います。
オペラならモナコ、パバロッティ、ドミンゴ、カラス、サザーランド、グルベローバ、マティス。ポピュラーなら、美空ひばり、天道よしみ、石川さゆり、ミーシャ、ちあきなおみ尾崎紀世彦など。ここで上げましたのは、「声」の良し悪しで選んだ方々です。
皆さんの頭の中にいい声の引き出しを沢山作り、これを真似することがいい声を出す近道です。ゴールを定めず、理想を持たずに突き進むことは逆にとても遠回りだったりします。例えば、英語の歌や、英語の発音をブラッシュアップしたい時、皆さんはどうしますか?テープやラジオ、テレビの英語を聴いてひたすら真似をすると思います。この単語と、この単語はくっつけて発音するとかっこいいとか、、、。聴いて真似するうちに色々なこつがわかってきますね。歌の技術習得も全く同じことが言えます。英語を流暢に話せるように練習するのと同様、歌も、うまい人の歌を聴いて、自分の体で体感して音感を身につけましょう。ただ、ここでいっているのは音声の事であって、表現をそのまま真似するということではありません。表現は、いろんな歌手の歌を聴きつつ、最終的にはご自分のオリジナルの表現を目指さなければなりません。(♯ё)

Q.それぞれの母音をはっきり区別して発音するようにといわれますが。どうやってやるのですか??

A.母音は発声・発音の基本ですが、これが明瞭に区別されずに発音されてしまうと、大変聞き取りずらいという現象ガ起きます。最近、若い俳優達の舞台を見ましたが、あまり発音のトレーニングを受けていないのか、「あ」と「え」がくっついて発音され、だらしなく聴こえる印象を持ちました。これは、俳優さんが、その母音の形というものを認識しているかしていないかにかかっていると思います。
その母音の形というものは、どうやってつくればよいのでしょうか?唇や顎で、口の形を変えて作るという風に思っている方もいらっしゃると思いますが、実は、舌が一番のキーポイントになります。本などで、各母音の発音の際の舌の形を図解したものがよく出ています。先ずそれを参考にされるとわかりやすいと思いますが、「あ」「お」「う」に関しては舌が口蓋から離れているのに対し、「い」と「え」は、舌の後から真ん中に掛けての面が口蓋に近いのが分かると思います。
このように、舌の付け根、咽の奥のほうで母音の変化を付ける意識を持ってみましょう。(♯ё)

Q.表現をするとはどういうことでしょうか?

A.ひとえに歌唱表現と言っても、いろんな段階があります。ここでは日本歌曲に絞って、みなさんの陥りがちな歌唱の癖などに言及しながらどうすれば、豊かな歌唱表現ができるか考えてみましょう。
まず日本語の特性ですが、単音節言語で一つの子音と一つの母音で成り立っている為、「お・お・き・な・のっ・ぽ・の」と一つ一つの音節を歌ってしまい、全ての音節の価値が同じになってしまいがちです。「のっぽ」の「の」と「のっぽの」の語尾の「の」は同じではないですよね。
このように、大事にする言葉と、大事にしなくていい言葉を捉えなおして見ます。つぎに、音楽の構成を考えて盛り上げ方を構築していきます。「大きなのっぽの古時計おじいさんの時計」「百年いつもうごいていたご自慢の時計さ」は導入、同じメロディー音型ですね。そして次の「おじ井さんの生まれた朝に買ってきた時計さ」は音の高さが更に上がっています。ここが曲の山ですから、一番エネルギーをこめて盛り上げなければなりません。そして「今はもう動かないその時計」はPで締めくくられます。このように曲全体をみて構成をきちんと考え構築していくことで表現の幅につながります。(♯ё)

Q.歌うときに息についてよく注意されるのですが、息をどのようにすればよいのでしょうか?

A.息が非常にキーポイントになると感じています。まず、息の量、についてです。息を吐く分量が少ないと、声量も出せないし、表現が小さくなってしまいます。身体で支えて声を出すことはもちろん基本なのですが、息をしっかり吐いていくことでしか、呼吸の筋肉を鍛えることは困難です。先ず息を沢山吐くことでトレーニングしていきましょう。
次に問題なのが息のスピードです。いくらたくさんの息を吐くことができても、息のスピードがないと、声が前に飛んでいってくれません。このスピードというのは、まるで自分の背後から新幹線がビューンと走って、過ぎ去っていくような感覚で、自分から高速の息を出していくのです。この息のスピードによって、声帯がよりしっかり合わさり、スピントの声、つまり張りのある輝かしい声がでるのです。このスピードは、お腹の下の力をつかってポンプのように押し出されなければなりません。
最後に息の到達点です。中には、歌っているときの目線が空中をみているかのようで、息の到達するゴールをみていらっしゃらない方がいます。声を届かせたい方向に焦点を合わせなければ、声は前に飛んでいってくれません。
この、息の量、息のスピード、息の到達点、三つに留意して歌ってみてください。(♯ё)

Q.息もれについて、息の力が弱いのではとも思うのですが、息もれがなおらないと曲においてよくないのでしょうか。

A.息もれは、くせや慣れでそうなっているので、スタッカートの練習などで、きれいに声帯が閉じる感覚をつかんでいきましょう。
息を混ぜて歌うことは決して悪くはありませんが、それしかできないのは残念です。また、吐く息の力とは関係ないでしょう。(♭Ξ)

Q.前にだしきれず、せきとめた声になってしまいます。
「前にとばす」「ブレスをまぜる(しっかりと吸う)」等してみましたが、そうすると今度は変な力みがでてしまいます。

A.「前にとばす」「ブレスをまぜる」という考えで、自分で自分の声を確認したり、聞きすぎていませんか。そうすると、アゴや舌に力みが出て、声も前にでていきません。(♭Σ)

Q.リチャード・ミラー著「上手に歌うためのQ&A」の本に、オスクーロ・アキーロという単語があり、とても気になりました。明るい、暗いとは何を指しているのでしょうか。

A.この2つの単語はイタリア語です。「chiaro」「sculo」と書きます。実際、イタリア語の作品を歌うためには、明るい声のみではいけません。
ある一定の音域は暗くする必要があります。響き重視のレッスンでは、明るく出させることが多いですが、明るいだけでは歳を重ねると高音が出しづらくなったり、声がゆれたりします。(♭Σ)

Q.dovereとvolereの違いは、何でしょうか。

A.この2つの単語はイタリア語で意味としてはdovereは「しなければいけない」。volereは「したい、ほしい」という意味です。日本人はdovereの感覚で歌を歌う人が多いと感じています。
「呼吸は腹式呼吸でなければいけない」「響きはたかくなければいけない」など、書ききれないことも多いのですが。しかし呼吸だって「愛を語る」時の呼吸と「誰かに怒っている」時の呼吸が同じわけないですしその歌詞、音楽で呼吸や表情は違うはずなのに発声を意識してなのか、いつも笑顔やいつも眉間に皺がある、というのはちょっと言葉や音楽を無視して自分の声のことだけを考えているようにしか思えず、だったら歌詞なんていいらないんじゃないのかとすら思えてくるのです。その歌詞を考え、音楽を考えたらそれにそった呼吸や表情が出てくるはずです。
devo cantare=歌わなければいけない(devoはdovereの一人称です)とvoglio cantare=歌いたい(voglioはvolereの一人称です)は違うということです。
このdovereの感覚の先にあるのがカラオケの採点機です。楽しいとは思いますが採点機で100点が出せる人が売れる、人を感動させられる、プロとしてやっていける人かというのは全く違う話です。深夜の番組でプロの歌手が採点機で100点が取れる歌い方を素人に教わっている姿を見てかなり違和感を覚え悲しくなりました。
100点をとるための歌い方と、人を感動させる歌は全く違うということです。私は歌はvolereだと思います。(♭Σ)

Q.腹式呼吸とは、お腹が膨らむように吸うことですよね?

A.スポーツや他の分野でよしとされている方法はわかりませんが、「発声」という観点からは違うといわざるを得ません。なぜなら、お腹、特に「下っ腹が膨らむように吸う」ということは、実際には浅いブレスにしかなっていないのです。人が呼吸をするのは、肺に酸素を取り込み、二酸化炭素を排出するために行われる行為なのです。お腹が膨れたように感じるのは、腹筋が前に広がり、あたかも吸った気になっているだけで、実際には肺のごく浅い部分しか使えないような非常に浅いブレスになってしまっているのです。
そもそも、胸式だの腹式だのという言葉で使い分けをしたことがよくありませんね。巷では、腹式が正解のブレスで、胸式は不正解のブレスだという考えが一般化しつつあるようですが、そもそもの違いを正確に理解できている人は、ほんの一握りで、各々の感覚で正解不正解を作っていることがほとんどだと思います。言葉だけを聞き、腹式が正しく、胸式が間違っていると思い込んでいる人は、まずはその考えを捨てましょう。
理想のブレスは、吸った空気があばらを通って背中へまわるように下降し、腰やお尻の方にまで届くような吸い方です。胸が力むことも無く、下っ腹が膨らむことも無い状態です。そして、最初は焦らずゆっくり吸うことが大切です。焦ってしまうと、浅いブレスにしかなりません。言葉に囚われず、「どうしたらたっぷり息を吸うことができるか」ということを意識し、そのための練習をし、身につけていくことが、何よりも重要です。(♭Я)

Q.声の健康のために何をすればいいでしょうか?

A.声帯は人間に与えられた楽器であり、一度損傷してしまうと、治癒に時間がかかるだけではなく、手術で声質が変わってしまうこともあります。私の経験上では、声帯結節の手術後、声が戻るのに3ヶ月、元のクオリティで仕事ができるようになるには5年かかりました。これは本当に個人差で、なんともいえないのですが、私の場合は、5年間結節がある状態で仕事を続けていました。異常のある声帯で技術を積み上げてしまったので、結節を手術で除去した後は、結節があるまま歌っていた日々と同等の時間を、リハビリに要してしまいました。しかも、声帯の質量が減ったわけですから、声が軽くなって、以前より重い声・太い声が出なくなってしまった実感があります。
声帯結節があった頃は、起床して3時間ほどは声が出にくく、しゃがれ声でした。なるべく3時間後に声を出すようにしていました。しかし手術後は起床2時間後でも、かすれず、三点C(非常に高い音)でもらくらく出るようになりました。結節があると、声帯がしっかり閉じないため、響きの弱い声・息漏れしたような声・強さのない声が出てしまいます。しかし、舞台でそれを見せないようにするには、無理をして首回りの筋肉や声帯の筋肉を使って、声帯を引っ張ってかすれ声を回避したせいか、首肩の疲労が異常なほどでした。
このような事態に陥らないために、くれぐれも自分の喉を大事にすることと、正しい発声を身につけることを、大変重視してレッスンをさせていただいております。歌い続ける時間は適正か?、正しい発声で喉で押したり潰したりせず自然に声を出せているか?、規則正しい生活で健康を保てているか?万一風邪を引いたときの対処などを身につけて、正しく健康的に声を付き合っていただきたいと思います。(♯ё)