Q.性格的に大きい声を出したい。
A.高揚すると、自分の能力の範囲以上のものを出したくなる。これは、声にデメリットになるかもしれません。たとえば怒ったときに強い出し方をすれば、怒っているように聞こえる分、喉にもよくありません。それよりはヴォイトレを中心にしましょう。
Q.リハとステージは一致していかないのですか。
A.人や見方によるんじゃないでしょうか。アーティストの中でも、ライブの前に同じくらいリハをやってからの方がいい人と、まったく声出しなしの方がいいという人もいるわけです。さわりや1番だけをやっていくくらいが精一杯であって、全部やったら消耗してしまう人もいます。
ライブのような日には声を出さないで、柔軟と呼吸だけを調整して、ステージに立ったほうが、いいという人もいる。歌い方にもよります。
美しい声できれいに歌う人は、あまり声を使わないでやったほうがいいでしょう。ハードにやりまくるような人は、その前にテンションが上げていたほうがいいです。
Q.ライブ前のテンションは、どのくらいありますか。
A.ボクサーでは、試合の前に徹底してピークにしないと最初の1ラウンドだけでも決まってしまう。ライブの場合は1ラウンドで終わることはないから、ゆっくりと始まって、自分の調子が出てくるところに盛り上がってくればいいという考えもあります。
私も昔、講演会の前、体をならしたり、声を出したりしていました。最初からハイペースで飛ばすよりも、2、3時間と長いのなら、一緒に調子が上がっていけばいいともいえます。徐々によくなったら、その方がよく、日本の場合は、頭から飛ばすことはそんなにないともいえます。最後に最悪の声になるのはよくないと、一般的にはいえるからです。
Q.喉を一般の人のレベルから変えていくには、どういう環境がいいのでしょうか。
A.自分の中で、喉が疲れたり痛くなったりすることがなければ、それがベースでいいと思います。喉の状態が細かく警告してくれるはずです。
Q.どう歌っても喉が丈夫なのですが、無理してもよいのですか。
A.何でもできてしまうと、却って喉の発声原理にあった発声にはならなくなることも多いです。
そのかわり、そういう歌声で、ひとつのインパクトなり音楽性を勝ち得たら、それはそれで強い。他の人がやったら、喉をつぶすようなものでも、その人がやっている限りはつぶれない。でも3年後、5年後などにそういう歌い方をつづけていくと、喉ががさがさになって歌えなくなることもある。長い目で見たときには、勧められない。喉のケアを別に考えたトレーニングをしたほうがいいということにはなりますね。
Q.人によって、体を鍛える時期が来て、その後に調整して、また鍛えてと、バランスというのは時期で変わるのですか。
A.難しい問題ですね。理想としては、併行して徐々に上がっていけばいいと思います。
役者では、喉を壊した状態が続いています。たとえば、大きな声は出せるけれども、小さな声は出せない、その大きさの声だけなら出ると。これはエアロビなどのインストラクターでもよくみかけました。
声が出なくはならない。そのかわり柔軟性を欠いたまま。つまり、力で持っていくからです。政治家の演説でもそうです。太い声で1オクターブくらいで歌うというシャウト型のヴォーカルならともかく、繊細に2オクターブを高音でファルセットも使うヴォーカルだったら荒れてしまいますね。技術やセンスがある人でも、ステージングでいうと、喉が荒れてしまったりうまく声が出なくなったりする。続けてやっていくと、ステージで疲れ、日常で疲れることになって回復は難しくなります。
Q.ステージングで、どこまでのことを要求するのですか。
A.スタイルにもよりますね。役者は、役作りのときに別に発声練習をしないで、いきなり入っていっても、日ごろからそういう声を出しているならよい。
ヴォーカルの場合は、どうしても声域の問題と、声のひびきの線をつないでいくフレーズの問題があります。それがやりにくくなってしまうような声の状態が出てくるのであれば使いすぎです。喉の状態を荒らしています。
Q.声が細いから、太い声が欲しいのですが。
A.わざと荒らしてみたり、声をつぶしてみたり、しゃがれた声にして歌が歌えるようにしました。ほとんどの人が音域がせまくなって喉が疲れやすくなってしまうので、勧められないのです。それを越えて、その声が個性的な役者のような領域になってしまったら、別ですが、かなりの努力と年月がいると思います。
Q.喉によい声、悪い声とは。
A.子供が飛び出し「危ない」と言わなければいけないときには、喉を守っている間はないでしょう。この声は喉に悪い。トレーニングとしては、皆で体操をやるときに、お腹からしっかりと声を朗々と出すというようなことがいいと思います。
Q.声によい仕事かどうか知りたいです。
A.自分の中で直感的に見て、それがいいのか悪いのか。仕事がいい悪いということよりも、その中での声の使われようですね。それがいいかは、声そのものより、それをやめたら、どういう生活になるのかということと比べないと、わかりません。でも冷房のきいているところで応対業務をして、体を冷やしている状態が続くなら、そうではない環境のほうが自然でいいですね。