発声と音声表現のQ&Aブログ

ヴォイストレーニング専門の研究所内外の質問と、トレーナーと専門家のQ&Aブログです。 あくまで回答したトレーナーの見解であり、研究所全体での統一見解ではありません。また、目的やレベル、個人差により、必ずしもあなたにあてはまるとは限りません。参考までにしてください。 カテゴリーから入ってみると便利です。 【rf :他に詳しく答えているのがあるので、それを参考にしてくださいという表記です。】 引き続き、ご質問もお待ちしています。できるだけ順次とりあげていきます。

Q.プロデューサーや演出家、映画監督に学ぶことは。

A.例えば、感情でも、本当に悲しみを表現するとなると、たいていは小さな声になります。小さな声が悲しみを表現できるのではなく、感情を込めて伝えようとしたときに、そういうしぜんに使えるところの声でないと、声に心がこもらないのです。しかし、オペラや役者はそれでは伝わりにくいので、大きく表現します。伝える相手は、目の前だけでなく、遠い客席にもいるのですから。しかも、目の前の相手役でなく、その相手に伝えるべきことを第三者の観客(オーディエンス)にいかに伝えるかがメインなのです。そこでは、私的な感情表現と全く違うことを理解してください。

小さくても表現できる、通る声、芯のある声があって、その技術が声の大きさなどを感じさせずに想いを伝えなくてはいけないのです。その効果を全体の表現のポイントを見通して、知り尽くしているのが、演出家や映画監督、ディレクターです。

彼らの全体的なコーディネート能力については、限られた空間や時間内に編集して仕上げる点でも、見習うところはたくさんあります。場合によっては、部分的な未完成を捨て、全体でまとめ上げること、作品そのものをプレイヤーの技量に頼らずとも、というと言い過ぎですが、とにかくも、大きな制限の中で作品という形として切り出すには、彼らの力が大きいのです。ただし、この辺は、その人を育てるというより、育っている人をどのように使うかという能力ともいえます。使うことで育てるといえます。

一方、トレーナーは、アーティストの未完成な部分の可能性にこだわり、そこを徹底して完成させていくための存在です。現場では、彼らと考えが対立することもあります。プロデューサーは最悪の場合、キャスティングを変更できますが、トレーナーは、目の前の一人の声の表現の可能性を最大に追求するからです。ただ、本人のオリジナリティを洞察できるトレーナーは、日本には少ないと思います。(♭)